(2021/9/16 05:00)
新型iPhone、目新しさ乏しく
米アップルが14日(現地時間)に発表したスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の最新モデルは、新開発の半導体を搭載して処理能力を高め、写真や動画の撮影機能を向上させた。ただ、目立った新機能は追加されず、現行モデルを踏襲した想定内の進化にとどまった。第5世代通信(5G)への移行需要は見込めるものの、中国の新興勢力が低価格路線で販売台数を伸ばす。次期モデル以降、持続的成長に向けた一手を打ち出せるかが焦点となる。(苦瓜朋子、編集委員・鈴木岳志、山田邦和)
【想定内の進化】処理能力・撮影機能を向上
「私たちが作り出した中で最高のアイフォーンだ」―。米カリフォルニア州の本社でオンライン発表会を開いたアップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は、新機種の出来栄えに胸を張る。
新型アイフォーン4機種は24日に発売する。標準モデル「13」と小型モデル「13ミニ」は背面カメラを対角線上に配置。カメラには新センサーを搭載し、暗い場所でも多くの光を取り込んで明るく撮影できる。動画撮影では被写体に自動でピントを合わせる機能を追加し、映画の一場面のような映像が簡単に撮れる。大容量バッテリーと半導体の進化により、13では現行モデルの「12」に比べて最大2時間半長く使用できるようにした。
上位機種の「13Pro」、「13Pro Max」には現行モデル同様に望遠と広角、超広角の3眼レンズを搭載。アイフォーンとして初めてストレージ容量1テラバイト(テラは1兆)のモデルをラインアップした。
世界で5G網の構築が進む中、アンテナと無線部品の進化で対応周波数帯を拡大。5Gの対象は年内に、現行比2倍となる60の国・地域で200社超の通信事業者に広げるとしている。
変わらぬ“稼ぎ頭”…待たれる「nextスマホ」
現行モデルが全機種で初めて5Gに対応したのに対し、今回の新機種はカメラやバッテリーといった基本性能の向上にとどまった。アップルの2021年4―6月期決算は、売上高が前年同期比36・4%増の814億3400万ドル(約8兆9151億円)。音楽や動画配信などのサービス事業を拡大しているが、アイフォーンは売り上げの5割弱を占める主力製品で、現在も重要な稼ぎ頭であることに変わりない。
世界市場では米中対立の影響で中国・華為技術(ファーウェイ)が失速するものの、小米(シャオミ)やOPPO(オッポ)といった中国の新興勢力が台頭する。米国で初代アイフォーンを発売して14年。従来のスマホの枠を超える新たな製品を生み出せるか、アップルの次の一手が注目される。
一方、世界的に深刻な半導体不足問題もリスクになりかねず、アップルと言えども無縁ではいられなさそうだ。タブレット端末「iPad(アイパッド)」などの生産制約を受けたことで、21年4―6月期の機会損失額は売上高の4%に相当する30億ドル弱(約3000億円)だったという。
7―9月期はついに主力のアイフォーン生産にも半導体不足の影響が及び、その機会損失は前四半期の30億ドル弱を上回る規模になる見通しだ。書き入れ時の年末商戦に向けて、生産面で綱渡りの状況が続きそうだ。
半導体不足の主役は、世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)など半導体受託製造(ファウンドリー)だ。アップルはTSMCにとって最大顧客であり、最先端チップが毎年発売されるアイフォーンの新モデルなどにいち早く搭載されており、今回も同様だ。
アップルが半導体不足とともに懸念を深めているのが、TSMCによる値上げだ。同社が最大20%の値上げを顧客へ通知したことが8月に明らかになった。20年末から特に影響が大きい車載用などの供給不足への対応にかかるコスト増を表向きの理由にしているようだが、台湾メーカーのしたたかな戦略の側面もありそうだ。
それでもアップルや米インテルなどはTSMCの最先端チップを調達すべく、門前市を成す。半導体の重要性は増すばかりで、アップルすら振り回されるほどだ。
携帯各社を苦しめる半導体不足
世界のスマホ市場におけるアップルのシェアが1割程度であるのに対し、日本市場では4割を占める。それだけに国内携帯大手は新型アイフォーンの販売に力を入れている。新モデルはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクに加え、楽天モバイルも販売する。
懸念材料となるのが世界的な半導体不足の影響だ。宮川潤一ソフトバンク社長は8月の決算説明会で「すでに(タブレット端末)『アイパッド』は十分な数量が確保できていない状況。秋以降のアイフォーンの供給が間に合うかが心配事ではある」と語っていた。半導体不足で供給に支障が出れば、コロナ禍の影響を脱しつつある端末販売台数を再び押し下げる要因となりかねない。携帯大手の苦悩は続きそうだ。
【電子部品に好機】高性能化で国内各社の出番
アイフォーンの新機種はカメラ機能の向上を前面に打ち出しており、「カメラのピントを合わせるためのセンサーや、手ぶれを防ぐためのOISなど電子部品、それらに使う部材の重要性が増す」(大和証券の佐渡拓実チーフアナリスト)。半導体不足やコロナ禍の中で、販売台数がどこまで伸びるか、電子部品業界は注目している。
アップルは一眼レフカメラなどにも使われる次世代技術のアイフォーンへの採用を進めており、新機種ではレンズではなくセンサー自体を動かして正確に光を集める「センサーシフトOIS」が採用されているとみられる。日本企業ではミネベアミツミやアルプスアルパインが手がけている。
センサーシフトOISの主要部材である微細なフレキシブルプリント配線板は、エッチングではなくメッキで配線を形成する高い技術が用いられており、日東電工の独壇場だ。これまでは現行の12シリーズの上位機種で使われてきたが、今回の新製品にも採用されれば需要のプラス材料になる。高機能化に伴って村田製作所や太陽誘電がつくるコンデンサーの需要拡大も見込める。
また、13シリーズはバッテリー容量も拡大しており、スマホ向けリチウムイオン二次電池で世界首位のTDKにとって追い風になりそうだ。
ただこうした点はある意味、想定の範囲内。佐渡氏は「注目しているのは台数だ」と強調する。「欧米はコロナワクチンの普及率が他地域より高く販売が伸びやすい素地がある一方、半導体不足がどのように効いてくるのか動向を見守りたい」と話す。アップルが不安定要素にどれだけ対応できるかが、電子部品メーカーの受注動向を左右しそうだ。
(2021/9/16 05:00)