インタビュー/サボテンがもたらす持続可能性―地球温暖化防止や食糧危機に貢献【地球環境特集より】

(2022/2/14 05:00)

  • サボテンや多肉植物の研究・普及などに取り組む中部大学講師の堀部貴紀氏(掲載写真はすべて堀部氏提供)。

 洪水や干ばつなどの自然災害が発生し、食糧問題が世界で起きている。こうした中、将来の食糧危機解決や地球温暖化防止において、サボテンが期待されている。サボテンはメキシコやイタリアなど30カ国以上で商業栽培され、日本では愛知県春日井市でサボテンの栽培が盛んに行われている。今回、サボテンの研究・普及に取り組んでいる中部大学講師の堀部貴紀氏にサボテンのユニークな特性や食用の普及動向、今後期待される点について聞いた。

  • メキシコ・グアダラハラのサボテン畑。

―なぜ今サボテンに注目が集まるのですか。

 「世界の陸地の4割が乾燥地で、そこに人口の35%が暮らしています。地球温暖化で乾燥地が拡大する中、どのように農業を行っていくかが重要です。サボテンは熱や乾燥に非常に強いです。夜間に気孔を開いて取り入れた二酸化炭素(CO2)をリンゴ酸に変換し、日中は気孔を閉じて体内の水分蒸散を抑制しながら、リンゴ酸からCO2を取り出す『CAM型光合成』ができます。そのため乾燥耐性の強いトウモロコシと比較しても、水を4分の1程度しか使いません」

 「水の使用が少ないからこそさまざまな地域での農業が可能で、多量生産でき、栄養機能性もあることから、2017年には国連食糧農業機関(FAO)がサボテンの消費を推奨する宣言を出しました。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の貧困や飢餓、健康・福祉などの達成にも寄与します」

  • メキシコのスーパーにはウチワサボテンの茎部分である「ノパル」の特設コーナーがあり、栄養価の高い野菜として食べられている。

―乾燥地でのカーボンオフセットに期待されています。

 「植物が生育できないような乾燥地でも、サボテンを植えてCO2を吸収できます。21年英国で開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、メキシコの企業が乾燥地でサボテンを使ったカーボンオフセット事業を紹介したそうです。吸収したCO2がシュウ酸カルシウムの結晶となるため、枯れたとしても半永久的に固定できるといった内容ですが、広く調査されたものではないため、私も日本の企業と一緒にCO2吸収に関するデータ集めようとしています」

 「日本には休耕田や耕作放棄地が多数存在します。こうした土地を食用サボテンの生産や、CO2固定能力など基礎データ収集に活用できないかと計画をしています。また東南アジアなどの多雨地域での栽培を想定した実験を行っています。水が浸った田んぼの土に、排水ゼロの状態でサボテンを植えてみましたが、枯死せずに成長しました。耐湿性という水に強い特性もあり、厳しい環境でも育ちます」

  • 多雨地域での栽培を想定した実験。水の浸った田んぼの土に植えても、腐ることなく成長。

  • 水耕栽培では、サボテンが倒れないように固定をして栽培をする。さまざまな栄養機能性向上の可能性に期待が高まる。

  • れき耕栽培は栽培方法がシンプルで、大規模栽培を可能にする。

―どのような栽培方法がありますか。

 「水と液体肥料で育てる水耕栽培ができます。水耕栽培では、肥料液に溶けている金属やイオンの含有量を、自由に調節することが可能です。金属含量を上げることで機能性を高める実験では、サボテン100グラム当たり亜鉛を12ミリグラム吸収しました。これは亜鉛含量が高い動物性食品の牡蛎(13・2ミリグラム)に匹敵します」

 「また、れき耕栽培という石ころを敷き詰めた中での栽培も行っています。れき耕栽培でも肥料液の含有量を調節でき、水をあげる頻度も月に1回だけで育ちます。水をあまりあげなくても簡単に、機能性の高いサボテンを栽培することができ、栽培方法がシンプルなので、栽培地の大規模化も可能です」

―食用サボテンにはどんな種類がありますか。

 「主にウチワサボテンの茎部分『ノパル』と果実部分『トゥナ』、ヒモサボテンの果実部分『ドラゴンフルーツ』の三つがあります。ウチワサボテンは約200種類のうち5種類が食用になります。とげが少ないため取り扱いやすく、成長速度が速いため生産性が高いです。サボテンは全体を余すところなく活用できます。若い茎は野菜として使用し、余った部分は動物のえさにします。また太く育って硬いもの、花や種子オイルは加工食品や化粧品の原料に使われます」

  • ウチワサボテンの先端に生る果実「トゥナ」。

  • トゥナは世界的消費量の多く、イタリア・シチリア島が大きな産地となっている。

  • 家畜のえさとしても使用。日本では動物園やペットショップで活用されている。

  • ぬめりによって食べ物が飲み込みやすくなるため、海外では肉料理と一緒に食べられている。

―おすすめの食べ方は。

 「ウチワサボテンはぬめりや酸味があり、オクラのような味わいで、海外では若くて柔らかい部分を肉料理の付け合わせに使うことが多いです。アジア人向けのサボテンレシピを、学生たちと開発しています。サボテンのラタトゥイユやチンジャオロースなどはおいしかったですよ」

―活用する上での課題はありますか。

 「サボテンは栄養繁殖ができ、種がなくても育ちます。切って植えておけば自然に育ち増えていくため、生産コストが安いです。しかし生命力が非常に強いため、乾燥地では大繁殖することがあり、管理や多様性の評価に十分な注意が必要です」

―企業からのニーズはどうですか。

 「持続可能性や脱炭素の観点から問い合わせが多いです。日本や東アジアでサボテンの普及を促進するために、農林水産省公認の『サボテン・多肉植物活用推進プラットフォーム』をつくりました。名鉄観光グループ(名古屋市中村区)をはじめ、さまざまな企業が参加しています」

 「地域の連携としては、春日井市のあるメーカーからCSR活動の一環としてサボテンを屋上緑化やCO2吸収に使用したい、また名古屋市の社会福祉法人からはサボテンを栽培して食堂に卸す事業を行いたいという話をいただきました。両方とも今年4月から実施する予定です」

―春日井市は日本一のサボテン産地です。

 「日本一の生産量を誇る春日井市では『サボテンのまち』としてサボテン振興プロジェクトを行っており、市内にサボテンを植えたり、ロゴマークを作成し普及するなど市民文化としてサボテンを定着させていく活動を取り組んでいます。私も専門家として参加しています」

―これからの展望を聞かせてください。

 「地球温暖化の状況下でも育ち、肥料や水をあまり使わなくても多く生産できる持続可能性が高い植物です。温暖化防止にも活用が期待されるため、低エネルギー・低炭素でモノを作っていかなくてはならないというときに、サボテンが活躍するのではないかと思っています」

 「サボテンはゲノム(全遺伝子)の解析などができておらず、世界的にもまだまだ研究が進んでいません。そして情報が少ないため、日本や東アジアでの普及が遅れています。まずは特性をしっかりと研究していこうというのが一つのテーマです。こうした研究成果を稲や小麦など他の作物に適用させることができれば、収量増加などにつながる可能性があります。また作物・食材としての魅力を科学的に評価することで、食材としての地位を確立していきたいです。『科学的な解明』と『普及促進』の基礎と応用を行い、国内外での産業創出、地球規模の課題解決につなげようというビジョンを描いています」

  • 地球温暖化対策や食糧問題解決に期待が高まる(アメリカ・ソノラ砂漠)。

堀部貴紀(ほりべ・たかのり)

名古屋大学農学部卒。中部大学大学院応用生物学研究科博士後期課程修了。専門は園芸学、植物生理学。サボテンの基礎・応用研究をはじめ、日本や東アジアでのサボテン普及・活用促進にむけて、春日井市や企業、大使館などと連携し取り組みを行っている。

(2022/2/14 05:00)

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