社説/日銀新総裁の重責(上)緩和維持も政策の柔軟性に期待

(2023/2/14 05:00)

政府は日銀の黒田東彦総裁の後任に、経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏を起用する人事を固めた。政府は人事案を14日、国会に提出する。当面は金融緩和を維持しつつも、経済情勢に応じて金融政策を修正するバランス感覚と柔軟性に期待したい。中長期的には行き詰まっている異次元金融緩和に終止符を打つ重責を果たしてほしい。

植田氏は1998年に日銀審議委員に就き、量的緩和政策を理論面で支えた。同氏は足元の金融緩和に理解を示す一方、金融政策は物価と景気の現状と見通しに基づいて決めるとの基本方針も示している。金融緩和に拘泥し過ぎた”黒田日銀”の副作用を点検しつつ、臨機応変に政策を調整してもらいたい。

政府・日銀は2013年に「できるだけ早期」に2%の物価上昇を達成する「共同声明」を出し、異次元金融緩和を導入。円安が企業業績を好転させ、株価を押し上げる成果を上げた。だがアベノミクスのうち構造改革が進ます、金融緩和に過度に依存した”1本足打法”の限界が浮き彫りになった。日銀による国債の大量購入は財政規律を緩め、債券市場の歪みも招いた。円安はエネルギー価格の高騰に拍車をかけ、低成長下の”悪い物価上昇”を誘発した。

黒田総裁は良くも悪しくも政策にブレがない。その総裁が22年12月に長期金利の上限を引き上げる政策修正を行った。異次元緩和が限界を迎えつつあるのは明らかだ。ただ23年度の実質成長率は1%台の低成長が見込まれ、仮に金融緩和を縮小すると住宅ローンや企業向け融資の金利が上がり、景気を冷やしかねない。植田氏が当面、現状の金融緩和継続を支持したのは適切な判断だ。焦点はどの局面で共同声明を見直し、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)を修正ないし廃止するかだ。金融市場が注視している。

日銀によると22年7―9月期の需給ギャップはマイナス0・06%とプラス圏に迫り、物価上昇の原因がコスト増から需要増に転換しつつある。23年春闘の賃上げ状況も見極め、金融政策に”植田色”を反映してもらいたい。

(2023/2/14 05:00)

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