社説/植田日銀総裁(下)政府と連携も”植田色”発揮を

(2023/4/11 05:00)

日銀の新総裁に就任した植田和男氏の最初の仕事は、黒田東彦前総裁が拘泥した異次元金融緩和の総括と検証である。10年の歳月を費やしても2%の物価安定目標を達成できず、デフレ脱却を実現できていない。自民党内で安倍晋三元首相の「アベノミクス」支持が根強い中、異次元緩和の副作用の是正と物価安定目標の実現という難題に臨むことになる。政府と連携しつつも”植田カラー”を発揮し、中長期の視点で金融政策の正常化を模索してもらいたい。

植田総裁は異次元金融緩和を当面は継承し、政府と緊密に連携する方針を示す。アベノミクスを支持する自民党に配慮した慎重なスタートと言える。だが国際通貨基金(IMF)や令和国民会議(令和臨調)が指摘するように、異次元緩和は検証・修正の時期を迎えている。

日銀の国債大量購入が債券市場を歪ませ、財政規律も緩ませた。金融緩和による「ぬるま湯」的な環境が生産性向上や賃上げを抑制した側面も否めない。植田総裁も異次元緩和の副作用を認めており、イールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)の修正を含め、徹底した検証が求められる。

令和臨調は、「できるだけ早期」に2%の物価上昇目標達成を目指す政府・日銀の共同声明を「長期的な目標」に修正するよう提言する。「早期達成」目標が異次元緩和と副作用を招いたとの指摘だ。「2%目標」という市場へのメッセージを維持しつつ、過度な金融緩和を修正する案も選択肢に加えたい。

世界経済は欧米の金融不安やウクライナ情勢を受けて先行き不透明な状況にある。IMFのゲオルギエバ専務理事は今後5年間の世界の成長率は3%程度にとどまり、1990年以降で最も低くなると見通している。

植田総裁は景気の下支え、市場との対話、異次元緩和の副作用是正、さらに出口戦略の模索と、難しい課題をクリアする重責を担う。産業界は人的投資とイノベーションを推進し、継続的な賃上げを実現することで、植田総裁が臨機応変に政策を修正できる環境を整えたい。

(2023/4/11 05:00)

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