For Future 先端技術(102)近畿大学 稚魚の自動選別システム

(2023/10/2 05:00)

画像解析→ロボが除去

人不足が深刻化しており、漁業も例外ではない。近畿大学は養殖した生育不良な稚魚を出荷前に自動選別し取り除くシステムを開発している。ベルトコンベヤーに流したマダイの稚魚の撮影画像を解析し、基準から外れた個体をロボットアームで取り除く仕組み。作業の自動化で作業者の負担軽減につながる。養殖現場での作業の効率化とともに、人手不足に悩む業界での事業継承への貢献が期待される。(東大阪・冨井哲雄)

  • 人による稚魚の分別作業の自動化が期待される

近畿大水産研究所(和歌山県白浜町)はマグロをはじめとする多くの魚の養殖の研究や生産を手がけている。国内の海産魚類の中で最も多いマダイに関しては1960年代から品種改良に着手。今では近畿大発ベンチャーのアーマリン近大(同)を通じ年間1500万尾の稚魚を全国の養殖業者に販売する。

マダイの養殖業者は稚魚を購入し1・5キログラム程度に育て市場で販売する。この際に問題になるのが稚魚の形だ。システム実証の責任者である水産養殖種苗センターの谷口直樹事業副本部長は「丸い形の稚魚では市場価値が下がる」と強調する。そのため奇形の稚魚の出荷率を抑える必要がある。

現状の取り組みとして、いけすからポンプで吸い上げられた稚魚はコンベヤーで作業員の前に運ばれ、作業員が生育不良の個体を目視し、手作業でより分けている。検査項目が多く、経験と集中力が求められる作業だ。谷口事業副本部長は「朝から夕方まで神経を使う作業で疲れる。また稚魚の確認ができるようになるには10年以上かかり技術承継が難しい」と課題を挙げる。働き手の負担を減らし、人員が減っても業務を続けられる仕組みとして自動化が急務だ。

  • マダイの稚魚を分別するロボット

研究グループは、奇形の代表となる丸みを帯びた形状の稚魚に着目。技能者による高度な選別ノウハウを装置に組み込み、事前に設定したサイズから大きく外れた稚魚を排除できた。装置導入で、選別にかかる人数を従来手法の3分の1となる1人に減らせる。先端技術総合研究所ロボット工学・技術センターの久保田均講師は「コンベヤー上の稚魚を撮影する際のシャッター時間は短い。選別のスピードや暴れる魚をどうするかが課題だった」と明かす。

いけすから稚魚を吸い上げコンベヤーに載る稚魚の数が画像解析の際に最適になるよう、ポンプの流量を自動化するシステムを豊田通商や日本マイクロソフトと開発。コンベヤーに供給する一定区間の魚影の面積とその隙間の面積を画像解析し、ポンプの流量を自動調節するソフトウエアを試作し、自動化につなげた。

装置で稚魚を選別する取り組みは国内初という。今後、データを収集・分析し、養殖現場での運用を通じて選別精度を向上させる。「実レーンに組み込み、機械と人間による作業体制を構築したい」(谷口事業副本部長)考えだ。12月の本格導入を目指す。研究の進展により漁業分野での生産性向上につながると期待される。

(2023/10/2 05:00)

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