社説/「東京科学大」発足まで1年 医工連携、挑戦的な試みに期待

(2023/10/4 05:00)

東京医科歯科大学と東京工業大学が統合し、「東京科学大学(仮称)」が発足する2024年10月まで1年となった。東京医科歯科大の臨床データを活用し、新たな医療技術を研究・開発する「リサーチホスピタル」の実現を打ち出している。重要性が認識されながら、さほど進んでいなかった医工連携が一気に加速すると期待したい。

両大学は、医工連携の要となる「医療工学研究所」を新設する。現在は病院内の臨床試験センターが電子カルテから個人情報を除いたデータを管理・提供している。これらのデータは知的財産としての価値が高い。新設する研究所に機能を移し、研究・産学連携の体制を整える。

両大学は統合により、コンバージェンスサイエンス(収束の科学)の実現を目指す。バラバラだった各領域の科学を収束する融合の科学と換言できる。

例えば核酸医薬と大規模言語モデルを掛け合わせた「生成人工知能(AI)医歯学」や、再生医療と量子センサーを融合した「量子医歯科学」などが挙げられる。すでにAIで性能を高める病原微生物センシングや、アルツハイマー病治療に期待されるリボ核酸を脳内に届けるナノマシンなど、20件超の共同研究が走り出した。これまでアプローチが難しかった分野への挑戦的な試みとして期待したい。

医療ロボットや新手法の新薬開発など、医工連携の重要性は多くの国民が実感する。医学部と工学部を持つ多くの総合大学でも期待されてきた。しかし実際はさほど進んでいないと言われる。総合大学は専門の教育機関が国の主導で一緒になった歴史から、伝統重視の縦割り意識が根強い。しかし今回の統合は自らの意思で行い、校名も変更するだけに、これまでとは心構えが大きく異なると言えよう。

基礎科学は対象を絞り、深掘りした研究の中から新たな知を発見してきた。ノーベル賞を受賞した研究の多くはこの形による。しかし近年は、研究分野の境目や複数分野の融合領域が注目されるようになった。東京科学大学は、その典型事例としての存在感を発揮してほしい。

(2023/10/4 05:00)

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