深層断面/スイス、万博に向け日本と連携 主役は新興企業

(2023/10/20 05:00)

スイスが2025年大阪・関西万博に向け、科学研究・イノベーション分野で日本との協力強化に乗り出した。9月30日に大阪市北区に在大阪領事館を正式オープン。「科学領事館」の顔を持つと同時に、世界に展開するイノベーションハブ「スイスネックス」の6番目の拠点と位置付け、日本の大学や企業との交流や協働を加速する。連携のカギを握るスイスのスタートアップ各社の動きをリポートする。(藤元正)

「この領事館が万博のパビリオンとともにスイスのイノベーションを象徴することになる」。アンドレアス・バオム駐日スイス大使は新領事館の開所式でこう述べ、万博との相乗効果で日本との学術協力やスタートアップ連携をさらに進める方針を明らかにした。

ABB、ネスレ、ノバルティス、ロシュ、UBSなどスイスには高い競争力を持つグローバル企業が存在し、世界知的所有権機関(WIPO)が9月末に出した「グローバル・イノベーション・インデックス2023」では13年連続で世界トップ。

同時期に公表された英タイムズ・ハイヤー・エデュケーションの「世界大学ランキング2024年版」でも、米国・英国の大学がトップ10を占める中、チューリヒ工科大学が前回と同じ11位に、ローザンヌ工科大学も33位に順位を上げた。高いレベルの大学の研究成果が優れたディープテックを生み出している。

【4足歩行ロボ】過酷な使用環境対応

  • 在大阪領事館の開所式典に登場したエニボティクスの4足歩行ロボと、登壇した右からバオム駐日スイス大使、ヒラヤマ教育・研究・イノベーション庁長官、メスナー領事

開所式で登場した4足歩行ロボット「ANYmal(アニマル)」を開発したANYbotics(エニボティクス)がその良い例だ。チューリヒ工科大で09年に開発が始まり、16年に会社が設立された。7月には日本バイナリー(東京都港区)と国内総販売代理店契約を結んでいる。

アニマルは高い走行性能と人工知能(AI)による自律制御が特徴。石油・ガス・化学プラントでの点検業務などに役立つという。サッチン・バンサル副社長は、米ボストン・ダイナミクスの同ロボット「Spot(スポット)」との違いについて、「アニマルは防塵防滴仕様で防爆仕様モデルもある」と過酷な産業環境に適したヘビーデューティーさを強調。日本では製鉄、鉄道、電力会社などと商談中で、「放射線への耐性があり福島原発でも利用できる」と話す。

【点検用ドローン】3D地図を作成

  • 屋内用ドローンをアピールするフライアビリティ日本担当エリアセールスマネージャーの若月航氏

その福島第一原子力発電所事故に触発されて14年に創業したのがローザンヌ工科大発のFlyability(フライアビリティ)。屋内や地下空間向けに、堅牢で飛行安定性の高い点検用飛行ロボット(ドローン)を開発した。衝撃に耐えられるよう本体がケージで囲まれ、全地球測位衛星システム(GNSS)を必要としない。視覚センサーや高機能のLiDAR(ライダー)でリアルタイムに3次元(3D)マップを作成し、マニュアル操作で飛行。測量にも使える。

日本担当の若月航エリアセールスマネージャーによれば、ユーザー第1号は実は日本のインフラ企業。すでに発電所や石油・ガス・製鉄など日本国内56社に80機近くを納入しているという。

【電動水中翼船】大阪湾で運行、船体浮かせエネ最大95%減

  • モビフライの電動水中翼船。ジュネーブ湖で実施したプロトタイプの航行試験では当初予想よりエネルギー消費が20%少なかった(同社提供)

一方、万博において大阪湾での電動水中翼船の運行を予定するのが19年設立のMobyFly(モビフライ)だ。水中翼で走行中に船体を浮かせ、コンピューター制御のフィンなどの独自機構により波を立てず高速で静かに航行する。長さ10メートルの「MBFY10」(定員20人)のプロトタイプをすでに完成。長さ20メートルと30メートルの計3製品を商用化する。いずれも時速70キロメートルを超える速度が出せるという。

一番の訴求ポイントは環境性能。現在のディーゼル駆動のボートに比べエネルギー消費を最大95%減らせる。リチウムイオン電池(LiB)と電動モーターで駆動し、30分間の急速充電で140キロメートルの航行を確認済み。航続距離を伸ばすため、次世代の水素燃料タイプでは仏エナジー・オブザーバー・ディベロップメント(EODev)と契約し、同社が船舶仕様にしたトヨタ自動車の燃料電池(FC)システムを採用する。

オンライン取材に応じたスー・プタラ最高経営責任者(CEO)は万博について「ゼロエミッションによる水上での大量輸送手段という未来のモビリティーを紹介できる素晴らしいチャンス」と期待する。先行予約販売中で、24年にはMBFY10の出荷を始める。

同じく環境関連のDePoly(ディポリ)はローザンヌ工科大発。20年設立の若い会社だが、6月のトップ100スイス・スタートアップ賞で10位に入った注目株だ。

他の素材と混じったり、汚れたりしたポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエステルの廃棄物から、PETやポリエステルのバージン材をリサイクルする手法を編み出した。サマンサ・アンダーソンCEOは「熱も酵素も使わず、分別や水洗いも不要。環境にやさしい化学物質を使っている」とし、日本で協業先やユーザーを開拓したいという。

インタビュー

DAC参入支援、経産省と協議

クライムワークスCCPOのクリストフ・ボイトラー氏

大気から二酸化炭素(CO2)を除去する商用の直接空気回収(DAC)技術を世界で初めて開発したClimeworks(クライムワークス)。来日したクリストフ・ボイトラー最高気候政策責任者(CCPO)に、日本での取り組みなどについて聞いた。

―日本企業との商談の進展状況は。

「大企業を含め、多くの日本企業と話し合いを進めている。経済産業省とも協議することになっている」

―経産省と話し合う内容は何ですか。

「日本政府のグリーン成長戦略とCO2除去の役割に我々は関心がある。経産省とはそのために実行可能なロードマップと、我々を日本に呼び込む政府の財政援助について話し合うことになる」

―クライムワークスの強みについて。

「我々はすでに16のDACプラントを展開し経験が豊富だ。モジュラー型のシステムを開発し、短期間でプラントを建設できる。プラントも再生可能エネルギーと廃熱だけで操業可能だ」

―アイスランドなどのほか、米国にも進出しようとしています。

「アイスランドでは3番目のプラント建設を進めている。米国ではエネルギー省(DOE)から3件のDACプロジェクトの契約を獲得した」

―日本やアジアでの案件はありますか。

「現時点ではノーだ。日本は経済的、地理的にも興味深く、CO2貯蔵のポテンシャルや再生エネもある。まだ初期段階だが、市場を詳しく調査中だ」

(2023/10/20 05:00)

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