(2024/7/31 05:00)
日本政策投資銀行は事業化により社会的なインパクトが見込めるスタートアップへの投資に力を入れている。資金を供給するだけでなく、投資先企業に役員を派遣するなど経営にも関与してきめ細かく成長をサポートするのが特色だ。実用化や収益化に至るまでの期間を下支えする。新しい市場や産業基盤の形成を後押しすることに主眼を置く。(編集委員・川口哲郎)
政投銀は金融機関の一般的な基準ではアプローチが難しいスタートアップにリスクマネーを供給する投資制度「Society5・0挑戦投資」を2020年度に開始し、これまでに13社の投資実績がある。蓄電池や空飛ぶクルマ、遠隔医療、半導体新素材などいずれも将来の市場拡大が期待される分野だ。
実務を担う「イノベーション推進室」は20人弱の体制で、1人当たり数社をカバー。投資先の経営にも関与するハンズオン投資が特色で、「投資先の成長を一緒に応援するような立ち位置」(国見寛通課長)だ。
支援の仕方は投資先企業の状況や成長ステージに応じてさまざま。経営会議に参加するだけでなく、需要に応じて顧客を紹介し、業務システム開発を請け負うなど事業運営に携わる場合もある。
例えば、衛星から得られるビッグデータを活用し、水道管の漏水リスクを100メートル四方単位の地図データで特定するサービスなどを展開する天地人(東京都中央区)。政投銀は23年12月に出資し、イノベーション推進室のメンバー2人が定期的にサポートしている。
メンバー2人は隔週の社内ミーティングや月次の株主報告会に参加し、事業の進捗(しんちょく)を確認している。天地人の桜庭康人最高経営責任者(CEO)は「いったん整理して報告し、質問を受けることで気付きが得られる。助言をいただく機会にもなっているので非常にありがたい」と話す。
衛星データを使った水道管漏水リスクの特定サービスはすでに導入実績があり、現状も数百の自治体と協議を進めている。能登半島地震で水道管の被害が大きかったように、老朽化した水道インフラの立て直しは全国の自治体が抱える共通の課題だ。桜庭CEOは「全国1700程度ある自治体のうち500に導入したい」と目標を掲げる。
天地人の隔週ミーティングに参加するなど日々の運営をサポートしている政投銀の寺田朱里さんは「成長する上での基盤を整える手伝いができればいい」と話す。寺田さんと同じチームの武田瑞穂副調査役は「衛星データを一般の人たちが使える、開かれた存在にしていける可能性がある。宇宙産業全体にも貢献できるプロジェクトになると期待している」と力を込める。
政投銀は23年度―25年度に新事業創出支援に1000億円を投じる計画で、スタートアップ投資も積極的に行う。イノベーション推進室はスタートアップの中でもシードやアーリーといった成長ステージ初期の企業を発掘し、支援する。
政投銀は子会社にベンチャーキャピタル(VC)のDBJキャピタルがある。VCが投資家の資金を募るのに対し、イノベーション推進室は自社のバランスシートから拠出する。VCのように回収期限がないため息の長いサポートが可能だ。
社会的インパクトの可能性がある技術や事業は足元の売り上げが立っていないため、金融機関の一般的な基準で投融資が難しい。政投銀のイノベーション推進室はこのようなスタートアップ投資の先鞭(せんべん)をつける役割を担っており、成果が注目される。
(2024/7/31 05:00)
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