技術で未来拓く 産総研の挑戦(329)次世代金属造形技術

(2024/9/19 05:00)

精緻なデザイン可能に

3次元(3D)プリンターで材料を積層しながら3次元的に形を作る方法は、鍛造、鋳造、切削などの従来の加工方法では困難な複雑形状を実現できる。また金型や治具などが不要なため、モノづくりのデジタル化の流れとも適合する技術である。当初は樹脂材料が対象であったが、近年は金属材料への適用も実用段階に入っており、航空宇宙、自動車、医療などの産業分野での実装が進んでいる。

現在、金属3Dプリンターの主流は、レーザー光で金属粉末を溶融させて固定するPBF(パウダーベッド)方式であるが、近年は次世代の金属3D造形技術としてバインダージェット方式が注目されている。

産業技術総合研究所(産総研)の北陸デジタルものづくりセンターには、バインダージェット方式の金属3Dプリンターが2023年5月に国内の公的機関として初めて導入された。

バインダージェット方式は金属粉末を造形物の形状に積層する時にバインダー(結合剤)で仮固定し、その後、金属の融点以下の温度で長時間加熱する焼結で完全固定するのが基本的原理で、多くの造形物を一括して処理できる。これにより製造速度が遅いという従来の金属3Dプリンターが抱える問題を解決できる可能性がある。またパウダーベッド方式よりも、より精緻な形状を造形できる。

一方でこの方式特有の課題もある。造形物は焼結時に20%近く収縮するため寸法精度に影響する。収縮量は温度、加熱時間、ガス圧、造形物の形状など、さまざまなパラメーターの影響を受ける。

収縮後の形状を精度よく予測・制御するには試作を繰り返してデータを蓄積する必要がある。これらの特徴を考慮した研究開発を行い、福井県が主要な生産地である国産眼鏡フレームの製造などに応用し、地域経済活性化への貢献を目指している。

また、金属積層技術が持つ高い造形能力を最大限に活用するためのデザイン創出の研究にも取り組んでいる。軽量で高剛性、放熱性など、与えられた制約条件の中で部材に要求されるさまざまな物理的・機械的特性を満たす部材形状を導出する計算手法を開発すると共に、それを活用した高機能デザインの創出と3Dプリンターでの造形に取り組んでいきたい。(木曜日に掲載)

産総研 インダストリアルCPS研究センター 3D造形評価研究チーム 研究チーム長 中住昭吾

06年入所。専門は数値シミュレーション。物理現象を記述する方程式の解を数値的に求める有限要素法や、非破壊検査技術を念頭においた逆問題に関する計算アルゴリズム開発の研究を行ってきた。23年の北陸デジタルものづくりセンター開所に伴い金属3Dプリンターの研究に従事する。

(2024/9/19 05:00)

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