(2024/9/23 05:00)
中国が日本からの水産物輸入を段階的に再開する。東京電力福島第一原子力発電所から海洋放出される処理水について、中国の専門家もモニタリング(監視)に加わる体制に拡充するなど、中国の要求を一定程度受け入れた。処理水の安全性は国際的に立証されているが、国内の水産業者に配慮し、事態の打開を優先したと評価したい。日中間には外交上の懸案が山積する。戦略的互恵関係の構築に向け、関係改善の一歩にしたい。
中国は処理水の海洋放出が始まった2023年8月、日本からの水産物輸入を全面的に禁止した。処理水は、国際原子力機関(IAEA)が「国際安全基準に合致」すると結論付けている。だが、中国は根拠を示さずに処理水を「汚染水」と表現し半ば外交カード化してきた。
処理水は、IAEAをはじめ第三国の分析機関がサンプルのデータ分析を比較する体制が整っている。中国の王毅外相は7月の日中外相会談で、中国を含む長期的な国際監視体制の構築を求めていた。第三国に中国も加え、試料採取なども容認することで関係修復を図ったとみられる。IAEAの下で実施されるモニタリング体制の枠組みは維持される。中国に一定の配慮を示した形だが、国内水産業者を考慮した判断と評価したい。
他方、サプライチェーン(供給網)を中国に依存するリスクは低減する必要がある。水産物に限らず、販路拡大などによるリスク分散は早期に講じたい。 日中には外交上の課題が山積する。23年7月施行の改正反スパイ法は、どのような行為が違法かが不明で、日本企業のビジネス環境を脅かす。アステラス製薬の社員は、根拠が不透明なままスパイ罪で起訴された。中国がゼロコロナ政策終了後に再開した短期滞在ビザの免除も、日本は停止されたままだ。
中国を予見可能なビジネス環境に改善し、両国の行き来を円滑化することは中国経済に資する。中国は不動産不況に伴う内需停滞で、24年は5%前後の成長が疑問視される。日中は実利主義で互恵関係を築き、「対立と協力」の均衡を保ちたい。
(2024/9/23 05:00)