(2020/11/25 05:00)
世界初の人工流れ星の実現に挑む宇宙ベンチャーのALE(東京都港区)。方や金属加工のエキスパート集団、金属技研(東京都中野区)。一見、関係が遠そうな両社だが、実は金属技研はALEの人工衛星の金属積層部品を供給するなど、提携関係にある。
今回、ALEの創業者で社長の岡島礼奈さんと、金属技研の営業本部副本部長の則長美穂さんに対談をお願いし、両社の提携の経緯や日本企業のカルチャー、事業の将来性などを語ってもらった。実は二人には共通点も多く、話は予想外の方向にも盛り上がった。不透明な経済状況の中、「コロナ後」の企業にとってヒントがあるかもしれない。
最初の打ち合わせから3日後には発注
――ALEのエンジニアの方が金属技研のHPを見て問い合わせをしたところから関係が始まったそうですね。
そうですね。すごいスピード受注でした。話があっという間に進み、最初の打ち合わせから3日後には発注をいただきました。ALEのお名前は以前から伺っていて、弊社の社長が岡島さんの記事を持ってきて、「うちもこういう夢のある仕事をやらなきゃ」と話していました。
――ALEからなぜ金属技研にお話を持って行ったのですか?
エンジニアが高度な技術で要求に応えてくれる会社を探して、金属技研のお名前を見つけたんです。そもそも私たちが欲しいような技術を持つ会社は少ないんです。例えば自動車部品だとすごいロットで発注がありますが、人工衛星は必要なロットが少ないのに技術が要求されるので、やりたがりません。そんな中、「おもしろい」とやってくれる会社はありがたいです。
――小ロットでも他品種対応できる金属技研だから対応できたわけですね。
もともと航空・宇宙は当社の三つの事業柱のうちの一つなので、問題ありませんでした。また、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のお仕事も関わっているので、ロットが少ないことに抵抗はなかったです。
――お互いの会社の印象はどうでしたか。
我々は今後も日本で人工衛星を作りたいと考えています。流れ星を放出する装置などにはかなりの精度が必要です。これを海外に持って行って作るのは無理だったかもしれません。そこを考えると、日本の製造業の技術を枯らさないでほしいなと思っています。
海外企業と日本企業の仕事の進め方が違います。日本企業は事前に相当な情報を交換して相談した上で慎重に進める感じ。それと違ってALEのスピード感はすごいですね。仕事のやり方は参考にしたいなと。
――世界初の人工流れ星の実施時期は当初の2020年春から、23年初期に変わりました。
そうですね。人工衛星の不具合があったところを修正する形で再挑戦します。
私、地元が瀬戸内なのですごく楽しみにしていました。
どちらですか。
香川です。
私鳥取なんで近いですね。香川県庁で働いていたそうで。
最初に県庁に入りまして、その後コンサル会社に行って今に至ります。
県庁の時に地元のモノづくりを見ていらっしゃったと言うことですか。
いろんな部署を回りました。国際交流とか観光誘致とか。最後は東京事務所で観光・物産振興を担当していました。
県庁に行ってその後、コンサルに入ったんですね。すごい不思議なキャリアです。
県庁に入った時は何も考えてなくて。やりながら『仕事って面白い』と思うようになりました。東京でメディア対応しているといろんな人がいて、面白いなと。香川のことをいろんな人に知ってもらう仕事をしていましたが、もっといろいろやりたいと思って転職しました。
コンサルといっても、皆さんがイメージするようなコンサルタントではなくて、モノづくりをしている企業の商品を海外に売るとか、バイヤーへのアポ取りとかをしていました。その中でお手伝いじゃなくて自分の責任でやりたいという風に思っていたころ、当時お手伝いをしていた金属技研に誘われ、入社しました。
「男性社会」の日本企業...少しずつ変化も
日本の会社の多くは未だに「男性社会」じゃないですか。それを思うと採用された社長さんは柔軟、先進的だなと思っちゃうんですけど。
前のコンサルの時のことですが、日本のお客さまと一緒に海外顧客を訪問すると、先方の半分は女性で日本側は全員男性。日本チームは若干、年齢層も高い。海外のお客さんは、コーヒーを「そこにあるからとって」とフランクな態度で接するんですが、日本チームがおろおろするところを見てしまったり。
そんな経験をして金属技研に来たら、女子だけ制服を着ていました。そこで「なぜ女子だけ制服なのか」と尋ねると、はっきりとした答えはない。結局、その後、本社では制服をやめることになりました。最初は制服でもいいという声もありましたが、今は好きな服を着て楽しそうに見えます。やっぱりそれまでは当たり前だったと思うんですよね。男性が多くて、技術偏重な会社だったので。少しずつ変わってきたと思います。
――岡島さんのご経歴も、在学中に起業されたり、大手証券会社に勤めたりされた後、ALEを起業されるなど、ユニークですよね。女性のキャリアパスに関して、何か学生にアドバイスできることは。
女子学生に私は日本企業ではなく、外資企業がお勧めと言ってました、昔は(笑)。後は金属技研のようにしっかり、役割や場所を与えてくれる日本企業を見つけられるかどうかですね。
――ばくちですね(笑)
私も同感です(笑)。
それか起業するかですね。
――今、男性の育休取得推進など、企業側で制度改革が進んでいますが、男女平等は本来は男性にとっても生きやすくなるはずなんですが。
男性はまだ「大黒柱幻想」を持っていて辛そうだなと感じます。思うに男女平等は女性が権利をくれということではなく、単に「性別にとらわれずに個人単位の強みを生かしてお互い楽に生きよう」ということかもしれません。息子が男の子なので、大きくなった時に無理をした生き方をしてほしくないです。お互いに楽な社会が作られれば良いな。
持続可能なモノづくりのあり方とは?
――ところでALEは今後、気候変動のビジネスを手がけるそうですね。
人工衛星や流れ星を流す過程で50キロ―100キロメートル圏の中層大気のデータを取ろうと考えています。中層大気のデータが取れれば、異常気象の予測や気候変動のメカニズム解明に役立ちます。
―― 一方の金属技研は、モノづくりにおける国連の持続可能な開発目標(SDGs)の実現を考えているそうですが。今後、いかに無駄な材料を使わずにモノを作るのかという流れは加速しそうですよね。
航空機の世界では1つの部品を作るのに、その何倍の材料を使ったかという指標があります。弊社は、高圧で粉末金属を焼結する熱間等方圧加圧(HIP)を得意としています。容器に粉末を入れ、固めるため、金属を削ってモノを作るより、無駄が少なくて済みます。3Dプリンターの発想も近いですね。この技術を使うことで機械特性を上げつつ、無駄もなくせます。飛行機であれば、軽くしつつ機能を高められます。弊社としてはこの流れに乗れると考えています。
宇宙に関連するプロジェクトも複数関わらせていただいているんですよ。JAXAのロケットとか、もう終了しましたが宇宙から飛んでくる未知の粒子であるダークマター(暗黒物質)を直接観測するプロジェクトの「XMASS」(エックスマス)計画だとか。より良い世の中になるとか、夢のある仕事がしたいですよね。
コロナ禍の今こそ社員を一枚岩にするチャンス!
――新型コロナウイルスの感染拡大で、従来の企業活動からの変更を迫られていますが、どのように対応していますか。
今30人ほどの社員数なんですが、この時期を使って今のメンバーを一枚岩にしたいなと考えています。スタートアップには30人の壁、100人の壁というようなハードルがあると言われます。そこでここ数年はこのメンバーを一枚岩にできれば、今後スムーズに事業が拡大していけるのではないかと考えています。
あまり社員と会う機会が減ってしまったので、オンラインですが社員と1対1で話す機会を積極的に設けています。ただ、エンジニアは出勤していますね。設計段階ではパソコンに向かって作業出来ましたが、組み立ての段階になると難しい。
本社は在宅勤務が多いですが、工場は難しいですね。弊社は国内に7つ工場があるので、経営者が7人いるような感覚です。そこである時間に私のzoomを開放して、みんなで雑談するようにしています。これまで一人で悩んだりしていたのが、一緒に話すと改善のためのアイデアが浮かんで来ることがあります。
――4月に金属技研はスウェーデンの企業を買収しました。国内市場が縮小する中、こういう状況でも海外市場への挑戦は避けられませんよね。
ちょうど欧州が新型コロナでパニックになる1週間前に買収の合意完了しました。社長は「挑戦しないと成長しない」という姿勢です。HIPの採用も、当時の経営陣の英断だったんです。
その分野に張るという決断は直感なんでしょうか。
本当はいろいろ考えてはいると思うんですが、素人の私から見ると直感にも見えます(笑)。社長は若いころ、よく妄想していたそうです。設備をいじれと言われた時も、「自動で出来たらいいな」とか妄想していたそうです。その中で、どうすればできるかを考え、こんなやり方があるじゃないかと見つけてくる。やはりそういった意味では色んなことにアンテナが張っているのでしょうね。
ビジネスだけど夢があるのは楽しい!
――岡島さんは2001年の獅子座流星群をみて、起業を決意したそうですね。あれは明け方でしたが、人工流れ星だったら子どもたちも見られる時間に流せますよね。空をみんなで見上げるイベントというのは定着すれば面白いですよね。
定着するかは分かりませんが、面白い話はもらいます。例えば、紛争地域で流して停戦を呼びかけることや子どもの誕生日に流したいといったお話です。みんながいろんな思いを乗せてくれているんだなとうれしくなりました。
――あくまでビジネスなんですけど、楽しい話ですよね。
弊社の社長もよく言っています。みんな夢を語って終わりだけれども、ALEはちゃんと継続できるようにビジネスに変える能力がすごいなと。
まだ、出来てないんですけどね(笑)。
応援してます。
今後人間が宇宙に行くことが普通になると思っています。その一端を弊社が担っていけたらいいなと思います。今後とも御社にはお世話になります。
――本日お話してみていかがでしたか。
岡島さんがどんな方かを想像しながら来たんですけど、想像よりずっと楽しかったです。
対談の直前まで、女性だということに気づかなくて(笑)。偏見ですけど、モノづくりの会社なので男性がいらっしゃるかと(笑)。ただ、いろいろ興味が湧いて、質問してしまいました。会社の近くにいいうどん屋さんがあるんです。良ければ、今度うどんでも食べにいきましょう!
岡島礼奈(おかじま・れな)。鳥取県出身。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻にて博士号(理学)を取得。卒業後、ゴールドマン・サックス証券へ入社。2009年から人工流れ星の研究をスタートさせ、2011年9月に株式会社ALEを設立。現在、代表取締役社長/ CEO。「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」を会社のMissionに掲げる。宇宙エンターテインメント事業と中層大気データ活用を通じ、科学と人類の持続的発展への貢献を目指す。
則長美穂(のりなが・みほ)。香川県出身。大阪大学人間科学部社会学科を卒業後、香川県庁に入庁。国際交流、観光振興等の業務を経て退庁後、三菱UFJリサーチ&コンサルティングにて、日本企業の海外展開サポート業務に携わる。2016年に金属技研へ入社し、営業本部副本部長として、主に海外営業等の統括を行う。ダイバシティ、インクルージョンに関心あり、多様性を活かした職場環境で、新しい市場を開拓することに取り組んでいる。
(2020/11/25 05:00)