[ 科学技術・大学 ]

熊本地震から4カ月 防災・減災に知見を活用

(2016/8/15 05:00)

4月に発生した熊本地震から、14日で4カ月が経過した。その間に、地上の観測網や地震研究者の現地調査などにより地震のメカニズムが徐々に解明されつつある。国の防災研究拠点である防災科学技術研究所では、強震観測網を使ったデータ解析や地面の液状化、建物被害の把握などを進め、災害対策に一段と力を注いでいる。

(福沢尚季)

【観測情報発信・共有】発生の背景探り有用な対策

  • 7月に都内で開いた熊本地震の報告会(KOKUYO HALL=東京都港区)

  • 約2000カ所の観測データを用いて地震発生のメカニズムを探っている(防災科研提供)

防災科研が7月に都内で開いた熊本地震の取り組みに関する会合で、地震の研究者らが一堂に会し、研究成果を報告した。防災科研の米倉実理事は「災害は今後も必ず発生する。災害時の対応を改善、向上させるための研究開発が不可欠だ」と災害対策の重要性をあらためて強調した。

こうした研究成果の一環として、熊本地震の発生メカニズムが少しずつ分かってきた。防災科研の地震津波火山ネットワークセンターと地震津波防災研究部門では、約2000カ所の地震観測点の観測データを用いた研究を行っている。熊本地震発生後には、観測したデータを解析し、政府の地震調査委員会(平田直委員長=東京大学地震研究所教授)などに情報を提供した。

さらに地震が発生した背景をはじめ、本震後に起きる余震を含めて、その後の地震活動に及ぼした影響などを分析。「地震の起こり方を理解することで、地下の壊れやすい部分の分布が分かった」(地震津波火山ネットワークセンターの淺野陽一高感度地震観測管理室長)という。

【液状化マップ作成】「震度5強でも」 地盤情報と照合

  • 液状化地点をまとめた「液状化被害情報アーカイブ」(防災科研提供)

地震研究では、地盤が液体状になり、建物が埋もれるなどの被害をもたらす「液状化現象」も大きなテーマだ。

防災科研社会防災システム研究部門の先名重樹主幹研究員の研究グループは現地調査などの実施を通じて、震度6弱以上の地域だけでなく、熊本市南区の海岸部や熊本県宇土市、同八代市など、震度5強の地域でも液状化が発生したことを明らかにした。

こうした知見を基に、液状化被害の状況を記録した「液状化被害情報アーカイブ」を作成した。まず航空写真などを使い、液状化した地点を整理。熊本地震の発生から約2週間後に現地入りし、液状化の危険性がある地点を確認した。さらに、国土地理院の「高解像度航空写真」を使い、液状化地点をまとめた。

先名主幹研究員は「今後、熊本地震を踏まえた液状化発生率の再検討と、地盤情報に基づいた液状化現象の解明に取り組む」と話している。

湯布院の北北東、大分地震を誘発

熊本地震により誘発され、大分県で発生した地震の位置と規模を明らかにする研究も進んでいる。強震観測網「K―NET」の湯布院観測点(大分県由布市)を先頭に地震波が広がっていることが判明した。

さらにK―NETなどの観測データから、地震の発生位置を推定。誘発された地震はK―NET湯布院観測点の北北東約6キロメートルの位置で発生し、地震の規模を示すマグニチュードが5.5と推定されることを突き止めた。

【建物被害研究】倒壊、二次災害最小に/「落ちても安全」な設備促す

  • 軽い材料を使っているため落下しても安全な軽量天井(防災科研提供)

熊本地震では家屋の倒壊など建物の被害も多く発生した。防災科研地震減災実験研究部門では、非構造部材などの被害状況について熊本地震の発生直後から現地調査を実施。熊本市などを中心とした初動調査をはじめ、液状化被害などを約1カ月にわたって調べた。熊本市内や同市沿岸の埋め立て地では液状化により駐車場や道路の陥没が多く、熊本市東区周辺では鉄筋コンクリート造建物の損傷や倒壊、木造家屋の倒壊を多数確認した。

一方、地震の大きさに対して被害が小さい施設も多かった。その一例として、体育館などに設置されている軽い材料を使った「軽量天井」が挙げられる。一般的な天井材に比べて柔らかく軽いため、天井が落下した場合でも安全な天井だ。同部門の佐々木智大研究員は「地震対策が効果を発揮した」と手応えを語る。

軽量天井を使用せず脱落防止対策を施していない天井は金具が外れ、天井が落下する恐れがある。こうした恐れがある場所は避難所など防災拠点として活用できなくなるため、佐々木研究員は対策の必要性を強調する。

防災科研では「応急対応だけでなく、長期的な復旧復興を視野に入れ、さまざまな研究を推進している」(林春男理事長)。熊本地震の知見を生かし、災害研究や被災地での取り組みが進むことで、地震の予知や二次災害の防止などの新しい防災対策につながることが期待される。

(2016/8/15 05:00)

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