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[ 科学技術・大学 ]
(2016/8/23 05:00)
酸化チタンに紫外線を当てて、汚れや雑菌を分解する光触媒技術。藤嶋昭東京理科大学長が東京大学の大学院生だった1967年にその機能を発見してから約50年が経過し、さまざまな分野で事業化が進んでいる。一層の市場拡大に向けて、産学連携の動きも活発で、今後も研究開発の進展が期待されている。
■市場創出へ産学連携
【五輪が起爆剤】
実用化が進む光触媒技術の関連市場は、現在も広がり続けている。今後、市場拡大の絶好の機会になると期待されているのが、2020年の東京五輪・パラリンピックだ。観客や訪日客に対する「おもてなし」の技術としてさまざまな場面で活用が見込まれている。
例えば、五輪の各競技場の外壁やテントは、光触媒の汚れ分解機能を付ければ、後年まで白さを維持できる。観客席の日よけに使えば、光触媒機能の一つである超親水性の“打ち水効果”で涼しさを引き出すことが可能になるかもしれない。さらに、抗ウイルス性のガラスを空港に取り入れれば、日本の感染症対策を世界に発信できる可能性がある。
用途拡大へとりわけ力を入れているのは産業界だ。光触媒工業会(大阪府門真市)は「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会組織員会」や、経済産業省、国土交通省、環境省など関係省庁に、光触媒の採用を促す活動を展開している。
現在、約1000億円と推定される国内の関連市場。同工業会の高濱孝一会長(パナソニックエコソリューションズ社先進技術開発センター所長)は「潜在力を考えると、市場はまだまだ伸びる」と期待する。
【酸化分解応用】
光触媒の機能が発見されたのは67年。水中の酸化チタンに光を当てると水が分解されて酸素と水素が発生することが分かり、「本多・藤嶋効果」と命名。エネルギー源として水素生成の期待が膨らんだものの、効率が低く、当初は研究開発の人気も高くなかった。
転機となったのは、酸化チタンに紫外線を照射して発生する酸化力を活用し、「酸化分解」の応用が進んだことだ。橋本和仁物質・材料研究機構理事長が、89年に東大の藤嶋研究室の講師に着任し、研究推進の原動力になったこともあり、TOTOの抗菌タイルや空気清浄機フィルターなど次々と商品化につながった。
【超親水性】
さらに水になじみやすい「超親水性」にも成功した。この従来の分解とは違う、別の機能がブレークスルーになった。2000年代後半には、建物の外壁などに光触媒の処理をし「晴れの日は汚れ分解、雨の日はそれを流し落とす」という“セルフクリーニング”の市場が急伸長した。
【外装建材向け】
藤嶋学長は「重要なのは本物であること。つまり、だれがやっても効果が分かり、自信を持って勧められるものしか生き残れない」と指摘する。外装建材のセルフクリーニングが光触媒関連市場の半分超にまで拡大したのも、清掃が難しい複雑な建物への施工を例に挙げつつ、「この技術があったからこそ実現できた」(藤嶋学長)と胸を張る。
【中小と共同研究】
実用化が進んだ分、以前に比べて共同研究の件数が減っている。とはいえ、現在、藤嶋学長は東京理科大の光触媒国際研究センターセンター長として、ユーヴィックス(東京都目黒区)と複数の共同研究に取り組んでいる。同社の森戸祐幸社長は藤嶋学長について、「新しいアイデアを思いつくと、すぐ行動に移すタイプ」と指摘するように、研究開発に今なお意欲的だ。
その一つが、マラリアなどを媒介する蚊の捕獲装置の開発。蚊を引き寄せる二酸化炭素(CO2)について、アルコールを原料に光触媒によって発生させる。「アフリカや東南アジアなどの世界的な問題の解決につながる」(藤嶋学長)と意気込む。また同社とは、室内での光触媒機能の発揮のため、太陽光の紫外線を導く低コストの光道管も開発中だ。
市場創出につながるイノベーションのカギを握るのは技術であり、人材が技術を支えている―。光触媒技術の歴史は、そのことを明確に示している
(編集委員・山本佳世子)
(2016/8/23 05:00)