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[ 科学技術・大学 ]
(2016/9/20 05:00)
かつて国営だったNTTは、現在でも2500人の研究者を抱える世界屈指の研究機関だ。研究所には各分野に精通した専門家がそろっており、研究は世界水準といえる。民間企業が自前の基礎研究を縮小する中でも、NTTは先端研究の手綱を緩めていない。
1999年のNTT再編により三つの総合研究所が誕生し、その下に12の研究所を置いている。現在も政府が約3分の1の株式を保有する特殊企業だが、近年は事業化を意識した研究も増えた。
ただ「物性科学基礎研究所」はその研究所群の中でも、最も顧客に遠い基礎研究に徹する。現在の技術の延長線上の研究は行わず、10―20年後を見すえ「既存技術の壁を打ち破る新原理の創出」を使命に掲げる。学術的な貢献も大きな任務だ。
象徴的なのが、その黎明(れいめい)期から世界の先端を走ってきた量子コンピューターの研究。最近では内閣府のプロジェクトの一環で、無線通信の周波数割り当てやマイクロプロセッサーの回路設計といった、現代社会のさまざまな局面で現れる「組み合わせ最適化問題」を解く、現代のコンピューターをしのぐ物理計算機「量子イジングマシン」の基盤技術を開発した。
「電流」の再定義につながる技術も生んだ。得意のシリコン微細加工技術を使い、電子を1個ずつ正確に運ぶ単電子素子を開発。この素子の評価技術は“電流の物差し”として有望であり、将来、科学研究の基準となるSI単位系の刷新に結びつくとみられる。
中長期のテーマに挑むからこそ、「世界トップレベルを目指さなければ、存在価値はない」と言い切る寒川哲臣所長。ノーベル賞級の成果を意識し、研究機関らしく、論文数や一流誌への掲載を評価の尺度にする。量子コンピューター研究の先駆者である山本喜久氏を筆頭に、スター研究者を数多く輩出しているのもNTTの特徴。大学とのパイプも太い。
一方で量子コンピューターと言えば近年は海外勢に押され、日本の存在感が揺らぐ。NTTを中心にした産学官の一層の結束が求められる。(藤木信穂)
▽主な所在地=神奈川県厚木市森の里若宮3の1▽電話=046・240・3312▽主要研究テーマ=量子コンピューター、フォトニック結晶、半導体デバイス、スピントロニクス、グラフェン▽研究者数=100人強
(2016/9/20 05:00)