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[ 科学技術・大学 ]
(2016/9/22 05:00)
中部大学教授で日本化学会会長を務める山本尚氏が、米国化学会の2017年のロジャー・アダムス賞の受賞者に決まった。有機化学分野の権威ある賞で、野依良治名古屋大学特別教授を含め、受賞者の約3分の1がノーベル賞を受賞している。有機化合物の炭素―炭素骨格をつくる「ルイス酸触媒」の開発という研究の業績と取り組み姿勢を聞いた。
―ルイス酸、ルイス塩基という分類は水素イオンに注目した酸、塩基より広義の定義によるものですね。
「世の中の物質はすべて酸と塩基からなる。『電子対を受け取るルイス酸』と『電子対を与えるルイス塩基』に分かれ、この間で反応が起こる。化合物の多くは塩基で表面に電子対を持つ。この電子対を受け取る相手としてルイス酸触媒が作用、化合物を活性化する」
「ここに別の化合物が加わるとルイス酸がはずれ、2化合物間が炭素―炭素で結ばれた生成物ができる。ルイス酸は触媒として元に戻ってまた作用し、効率的な反応が進む」
―開発したルイス酸触媒は具体的にどのようなものですか。
「単純な塩化アルミニウムから、塩素をかさ高い構造の配位子(金属についた化合物)に置き換えた『有機アルミニウム化合物』だ。大きな構造が邪魔なため、通常と異なり一つの反応しか起きないといった精密合成を70年代に多数実現した」
―選択的な反応を起こす手法を発展させ、次に臨んだのが不斉合成でした。
「医薬品合成で重要な炭素―水素、炭素―酸素の結合の不斉合成で、80年代半ばに野依氏らが成果を出し始めていた。ここで我々は、特殊な配位子を持つ亜鉛やチタンなどのルイス酸触媒で、不斉の炭素―炭素結合を作ることに成功した。化合物の基本骨格に不斉が導入できるため、大変な数の研究者が関連の反応に取り組んだ」
―生理活性物資で、血圧降下作用などのある「プロスタグランジン」合成など実用化例はあるのに、一般に研究業績が伝わりにくい点が悩ましいのでは。
「しかし、『こういう方法であれば広く使える』と示すことは、地味だが、波及効果の大きい重要な仕事だ。その意味でも、人まねが嫌いで新たなことを切り開く若者を大勢、育てたい。会長を務める日本化学会で重要な課題は、この人材育成だと考えている」
《略歴》やまもと・ひさし 67年(昭42)京大工卒。71年米ハーバード大博士修了、同年東レ入社。72年京大工助手、77年米ハワイ大准教授、80年名大工准教授、83年同大教授、02年米シカゴ大教授などを経て10年中部大教授。16年に日本化学会会長就任。兵庫県出身、73歳。
【記者の目/研究者の重要な資源は“信念”】
触媒がキーの有機合成化学は日本が世界的に強いものの、競争の激しい分野だ。山本氏は日米の大学を行き来するなど人と違うキャリアを積み上げたが、自らを「むちゃくちゃ楽天主義」と評する。「(取り組みは)うまくいくと頭から信じる」。これが研究者の資質として最も大切なものなのだろう。(編集委員・山本佳世子)
(2016/9/22 05:00)
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