[ オピニオン ]
(2016/10/13 05:00)
東京工業大学の大隅良典栄誉教授(71)がオートファジーの研究により、今年のノーベル生理学医学賞を単独で受賞することになった。日本人のノーベル賞受賞は3年連続となる。物理学賞、化学賞でも下馬評では日本人研究者の名前も挙がっていたが、残念ながら受賞とはならなかった。
ノーベル賞はダイナマイトを発明したスウェーデンのアルフレッド・ノーベルの遺言に基づいて「人類の福祉に最も貢献した人々」に授与される。現在ではノーベル賞の賞金を上回るような賞もあり、またノーベル賞は複数受賞が多く、その場合、賞金は分配となる。だが、賞金はともかく、自然科学分野においてはノーベル賞の権威はいまだに衰えていない。
ノーベル賞は1901年に始まり、戦前には日本人の受賞者はいなかった。戦後間もない1949年に中間子の存在を理論的に予言した湯川秀樹博士が初の受賞者となった。その後、外国籍を含め受賞者は25人、そのうち自然科学3分野の日本人受賞者は22人を数える。ちなみに21世紀に入ってからは大隅さんが16人目になる。
自然科学3分野の受賞者は国別では米国が圧倒的多数で、次いで英独仏の欧州勢、日本の順となる。基礎的な科学研究が産業をけん引し、豊かな社会を築いていることがうかがえる。
日本は戦後、高品質のモノづくりで高度経済成長を遂げた。しかし、上手に作れば売れると分かっているモノを低コストで作るという作業は労賃の安い発展途上の地域に向かうのが自然の流れだ。労賃が上昇し、生活水準の高い国は科学研究の成果に基づき、世界中の人々の役に立つモノを生み出していかなければ衰退の道をたどることになる。
大隅さんは「科学の道を志すのであれば、人がまだやっていないこと、そして自分が心底おもしろいと思えることをやってほしい」という。日本が今後も発展し続けるためには、「役に立つ」と分かっている研究だけでなく、「誰もやっていない」ことに挑戦する若手研究者を増やさなくてはならない。
ノーベル賞級の研究成果を生み出すこうした研究者は広いすそ野があってこそ出てくる。まずは若手研究者が自分の信じる研究に邁進してほしい。また多くの少年少女が科学研究に興味を持つ環境を整えることが必要だ。
さらに研究者が生み出した成果を人々の役に立つ形に遅滞なくつなげることが求められる。つまり「知」の充実と、その「知」を産業に結び付け、「富」を生み出すシステムが重要になる。大隅さんの受賞を機に、高齢化が進む資源小国・日本にとって、「知」こそが最大の資源であることを認識したい。
(論説委員・山崎和雄)
(2016/10/13 05:00)