[ オピニオン ]
(2016/10/18 05:00)
地方創生は、地域住民や企業が地元をよく知ることから始めるべきだ。訪日外国人観光客の誘致や「婚活」イベント、移住者の増加、農業の六次産業化などがよく話題に上る。しかし、そうした施策は本当に地元の強みを生かしたものか。自治体にも考えてもらいたい。
埼玉県川口市は“鋳物の街”として知られる。中小企業が多く、駅周辺は多くの商店でにぎわう。同市は21日から3日間、「川口市産品フェア2016」を開催する。
単なる地域の特産品フェアに思えるかも知れない。しかし昨年の第1回は期間中、3万6500人もの来場者があった。約59万人の市の人口の5%を超える。市は当初、数千人程度と見込んでいたというから、うれしい誤算だったろう。
小説や映画の『キューポラのある街』の時代に比べれば鋳物工場は減ったものの、フェアには鋳物関係の出展が多い。ただ今年の出展はサービス産業や生活関連産業の企業を含めた約90社。変わりゆく街の経済の鼓動を市民にも理解してもらおうという市側の意図がにじむ。
同フェアが多くの集客に成功したのは、単なる企業の展示会と趣を異にしているからだ。今年のイベント内容はテレビで有名な古美術品の鑑定家が講演したり、タレントを呼んだりする。また『川口のお仕事体験』コーナーもあり、市民参加の垣根を低くしている。エンターテインメント性と地元経済活動を融合させながら、住民に現在の市の状態を発信する。そうしたイベントだ。
川口市は飛び抜けて個性のある自治体だ。しかし同市の奥ノ木信夫市長は「我々は(地元について)意外に知らないことが多い」と話す。よほどのライバル同士ならともかく、隣の工場で「何を作っているのか、よく知らない」というのは中小企業経営者の実感かもしれない。
地域の経済なら何でも知っている気でいるのではなく、地元企業が何をやっているかを自治体と地域住民が改めて知ろうとすることが、地方経済活性化の第一歩になるのではないか。
(2016/10/18 05:00)