[ 機械 ]
(2016/10/28 16:00)
歯車は歯が折れない限り確実に回転運動を伝えるため、遅れの生じない動力伝達装置に使用される。これを実現するために必要な歯車に求められる性能は日々厳しさを増している。具体的には小型・軽量化に貢献するための強度向上、省エネルギーに貢献するためのかみ合い損失の低減、静粛性に貢献するためのギアノイズの低減、速度制御に不可欠な滑らかな回転運動伝達性能の向上、コスト低減のための高能率加工など、これらを高次元で両立させることだ。
◇九州大学大学院 工学研究院 機械工学部門 教授 黒河 周平
歯車・歯車加工に対する要求
特に歯車加工においては①歯形・歯すじ・ピッチを高精度で加工できること②高能率であること③高機能であること―などが要求される。高精度加工を実現するには、歯車加工工具自体が高精度であること、かつ工具摩耗が少なく切れ刃形状が長持ちする長寿命化が不可欠となる。それに加えて、歯車を加工する工作機械が高精度でかつ高剛性であることが要求される。
また小型歯車に代表される大量生産品では、低コスト化のために短時間で高能率に加工することはもちろん、製品の精度バラつきを抑える必要がある。
さらに歯面修整、表面粗さを改善するための工夫も必要であり、高度な工具設計・成形技術と加工機器の高精度制御技術、それを保証する高精度計測技術といった多方面からのアプローチが必要となる。
最近の動向-高精度・加工時間の短縮・低コスト
コンパクトで高強度を要求される高硬度歯車の製造工程では、熱処理後の歯面精度要求レベルが一段と厳しくなってきている。バラつきを抑え、精度を安定させる必要性から、熱処理前仕上げとしてのシェービング工程を廃止し、矯正能力の高い歯面研削の採用に移行してきた。それでも研削はやはりコスト的に厳しいという場合には、焼き入れ後の仕上げにハードホビングを用いる場合もある。
歯切りに関しては高生産性を実現するため、高速・高送り・高能率加工、切削速度の向上が求められる。近年の工作機械の進歩は著しいものがあり、安定した高速加工が実現できる。小径のピニオンであれば、10秒以内での歯切り加工が可能であり、段取り換えによる被加工時間の短縮も無視できない重要な技術となっている。
また環境負荷低減のためドライカットが主流となっている。高速切削になると温度上昇により構成刃先が消失する利点があり、発生する熱のほとんどは切りくずおよび工具に伝わって被削材への熱の流入割合が減る。
このため歯車の精度を維持しやすい半面、切りくずの処理や、高速切削における工具刃先の温度上昇による工具寿命の低下が大きな問題となる。加工機器の進歩とともに、歯切り工具の進歩も不可欠である。
現状では超硬ホブで毎分300メートルの切削速度も安定して実現している。超硬合金は高温環境下でも高速度鋼(ハイス)に比べ硬度が落ちにくいため、高速切削向きには違いないが、硬い半面、極めてもろいという性質がある。
他方、ハイス工具は靱性に富むため、コーティング技術を駆使して適用限界をより高速領域に上げる工夫も続けられている。AlCrSiN系のコーティング膜を施したハイス工具切れ刃では、切削速度毎分400メートルまで切削速度を上げても、歯先にわずかにクレーター摩耗が発生する程度であり、チタン系コーティング膜に比べ高い耐摩耗性を示している(写真1)。
今後の期待
内歯車のスカイビング加工は連続創成加工方式のため、内歯車の加工能率はギアシェーパーに比べ数倍高いのが特徴である。工具寿命の観点から量産現場で採用されることがなかったが、今日の工具技術の進歩および高精度・高剛性の工作機械が実現できるようになってきたため、実用化できる可能性を帯びてきた。
また汎用のマシニングセンター(MC)を用いて、エンドミルやディスク形カッターを用いた加工方式が現れてきた。MCの高精度・高剛性・ソフトウエアなどの高度化により、データを適切に与えれば、ほとんどの種類の歯車を精度良く仕上げられるようになった。小型・量産歯車では能率が悪くて意味がないが、専用の加工機が必要なく、大型のかさ歯車の歯切りなどに実際に用いられるようになってきている。
ホブ切りにおいても、さらなる高速切削に向けた技術として、cBN工具を用いた超高速加工も今後期待される技術の一つである(写真2)。超硬などでは実現不可能な毎分1200メートルでの切削加工も可能だ。
またドライ切削における課題の一つに、切りくずのかみ込みによる歯面精度不良の懸念が挙げられる。そのためには切りくず生成機構の詳細な解明、切りくずの挙動解析・評価も必要な技術となる(図)。
おわりに
歯車加工の最近の動向について概観した。このほかにもシェービング、ブローチ加工、歯面研削、ホーニング、ラッピング、歯車加工機器、計測技術など、語り尽くせない加工関連技術がある。コンパクト、低コスト、かつ高性能な歯車減速機開発に向けて、日々技術開発がなされ続けている。
(2016/10/28 16:00)