[ オピニオン ]
(2016/11/3 05:00)
日本では緩和的な金融政策が際限なく続きそうな雲行きなのに対して、米国は年内に政策金利を引き上げるのではないかとの観測が広がっている。米国の利上げは世界経済への影響が大きいだけに、注目度も高い。
米国は欧州各国や日本と同じように、リーマン・ショック後の経済不振から、大規模な金融緩和策を取ってきた。しかし、景気の持ち直しを背景に、量的緩和と決別し、昨年12月にはついに利上げに踏み切った。今年も複数回の利上げを行う意向だったが、新興国経済への影響などを考慮して、実施を見送ってきた。
9月に行われた、日本の金融政策決定会合に当たるFOMC(連邦公開市場委員会)では、良好な雇用情勢や個人消費、設備投資の増加から「利上げの環境は整ってきた」との認識で一致したため、利上げしてもおかしくない状況だった。だが、雇用に改善余地があること、インフレ率が依然低いことなどを理由に金利は据え置かれた。この時の採決は現状維持が7人、反対(利上げ支持)が3人。反対3人というのは2000年以降で3回しかない異例の事態だ。
最近発表された 米国の7-9月期GDP(国内総生産)は年率で2.9%増と好調だった。前期が同1.4%増だったことを考えると、成長が加速していることを物語っている。さらにプラス成長は実に2年半も続いており、いつ利上げしてもよさそうだ。しかし、8日に行われる米大統領選への影響を避けるため、11月のFOMCでも利上げは見送られる公算が大きく、12月のFOMCでの利上げが濃厚とみられる。
利上げをすると、株価が下がるというのが通説。利上げに伴って米国が株安になると、日本でも株安になりやすいとあって、とんだとばっちりだ。だが、米国が利上げをすると、日米の金利差が広がるため、ドルが買われて円安ドル高になる可能性が高く、日本にとって歓迎すべきことだ。したがって米国の利上げの影響は計り知れない面がある。
エコノミストの大方の予想は12月利上げで一致している。利上げできるほど米国経済が好調だということは世界経済の下支え要因となる。しかし、12月のFOMCでも利上げが行われないとどうなるだろう。今年は1回も利上げが行われないことになり、FRB(米連邦準備理事会)のシナリオは完全に崩壊するだけでなく、米国経済への警戒感が生まれることになりかねない。
そのようなことになれば、ドルが売られ、円高になるに違いない。その際は1ドル100円を割るような大幅な円高もあり得る。日本経済のけん引役ともいえる輸出型製造業にとっては死活問題だ。要するに米国の利上げ時期が日本経済の命運を左右すると言っても過言ではなく、年末に向けて、ますます無関心ではいられない。
(論説委員・川崎一)
(2016/11/3 05:00)