[ オピニオン ]
(2016/11/24 05:00)
国連海洋法条約に基づくオランダ・ハーグの仲裁裁判所が7月に中国が南シナ海で独自に設定している境界線「九段線」に関し、国際法上根拠なしとした。しかし、それ以降も中国は同線内の主権・管轄権を主張し、資源開発、人工島の建設、そこへの滑走路の建設など実効支配を強めている。我が国にとり、南シナ海の自由航行は、原油など資源確保や貿易上、戦略的シーレーンとして極めて重要であり、中国の動きは当然座視できない。
そして、そのシーレーンにつながるマラッカ海峡、インド洋もしかりである。そこでもまた、中国は港湾にターゲットを絞り、周辺を含めた開発プロジェクト推進という経済協力を武器に、マレーシア、ミャンマー、パキスタン、スリランカなどに触手を伸ばしている。
マレーシアの場合、マラッカ海峡で、中国との合同軍事演習を昨年9月、初めて実施、今秋も行っている。港湾開発では、マレーシアはコンテナ扱い量で世界12位、同国最大のクラン港に第3ターミナルを建設し、2020年までにコンテナ取扱量を1630万TEU(20フィート・コンテナ換算)に引き上げることを計画。中国の協力獲得へ動いている。同港は、中国の上海、寧波(ニンポー)、福州、天津、厦門(アモイ)、大連などの港と港湾設備や科学技術交流に関する覚書を交わしている。東南アジア有数のコンテナの積み替え港を有するシンガポールは、そうした動きに警戒を強めている。
マレーシアではこのほか、クアンンタン港などでも中国企業との経済開発プロジェクトが進む。中国のシーレーンに外国の港を配して外港化する「真珠の首飾り」に乗った形での経済開発だ。ナジブ政権のこうした対中依存に対し、マハティール元首相は与党の「統一マレー国民組織(UMNO)」を出て、新党を結成。犬猿の仲だったアンワル元副首相と連携、国営投資公社である1MDB不正資金疑惑、ロスマ首相夫人の資金疑惑などナジブ首相批判を強めている。ちなみに、港湾を管轄する運輸相は、UMNOの一角を担うマレーシア華人協会の会長だ。
「真珠の首飾り」への取り込みは、パキスタン、ミャンマー、スリランカ、バングラデシュなどでも進む。イラン国境から約70キロメートルの、パキスタンのダワダル港はアラビア海とペルシャ湾のチョークポイント(要衝)である。イランとパキスタン間では石油パイプライン建設が進む。
ミャンマーのマディ島-中国の雲南省昆明間の石油パイプラインはすでに完工している。ダワダル港と同様、マラッカ海峡を回避できるルート設定だ。ミャンマーのココ諸島は、マラッカ海峡の出入り口であるインドのアンダマン・ニコバル諸島の動向をうかがえる地点で、中国が租借し、通信傍受施設を持つとされる。
スリランカのコロンボ港への港湾都市「ポート・シティ」建設プロジェクトは15年1月、現シリセーナ政権の発足時に中断したが、中国の巻き返しで、再開が許可された。南部のハンバントタ港は、中国企業により2期工事が完成しており、港湾の運営を中国企業に任せる意向とされる。バングラデシュでも、中国はチッタゴンの南にあるソナディア島に新しい港湾を建設することを持ちかけている。この近くでは日本の円借款による港湾建設で合意している。
(客員論説委員・中村悦二)
(2016/11/24 05:00)