[ 機械 ]

【別刷特集】アジア-“新たな凡庸”がもたらすインパクト

(2016/12/6 10:30)

 工作機械の一大消費地である中国およびアジア地域。その市場をめぐるめまぐるしい動きは、今後の世界の工作機械市場を読み解くうえで欠かせない要素だ。台湾政府系の研究開発機関である台湾工業技術研究院(ITRI)に属するシンクタンク、産業経済動向研究センター(IEK)の葉立綸氏に、中国を中心とした市場の展望について解説してもらった。

◇台湾工業技術研究院・産業経済動向研究センター(IEK) 機械製造システム研究部 葉 立綸 

  • 中国における工作機械4大輸入国シェア

 2016年の世界の工作機械市場は、全世界的に経済が失速する中、その消費規模は712億ドルが見込まれる。15年に比べ10.9%減少し、2年連続2ケタ減となる。中でも最大市場の中国の減少幅は大きく、25%減と予測されている。

 また15年の工作機械10大消費国である中国、米国、ドイツ、日本、韓国、イタリア、メキシコ、ロシア、台湾、インドの消費金額合計は世界全体の64.4%を占めた。そのうちアジア地域は402億3300万ドルで、50.9%を占める。

 ここに東南アジアのタイ、ベトナム、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポールの消費額を足したアジア工作機械市場は442億900万ドルに達し、世界の56%を占める。14年に市場全体が12.2%縮小したこともあり、アジア市場は世界の工作機械産業の発展に決定的な影響を及ぼすと言える。

調整期、陣痛期、消化期 「三期重複」の状況下に

 過去10年間で、中国は常に工作機械の最大消費国である。15年は275億ドルで世界の34.8%を占めた。今後も最大消費国になり続けると思われる一方、14年比13.5%減少している。世界経済がすでに「長期的かつ持続的な停滞」を指す“新たな凡庸(New Medicore)”に突入した今、中国経済は成長スピードの調整期、産業構造調整で痛みを伴う陣痛期、そして経済刺激策の消化期の重なりを指す「三期重複」にある。

 同時に外需の衰退、刻々と進む高齢化、労働人口ボーナス減少、工作機械製品の在庫増、過剰な生産力などを背景に、製造業の成長スピードは鈍化した。

中国政府は産業構造の調整、海外での一帯一路構想などを通じ市場の過剰供給や在庫解消を進め、15年は工作機械の輸入量が大幅に減少。世界の工作機械産業に大きなインパクトをもたらした。

独・韓シェア拡大

 中国における工作機械総輸入額のうち、74.9%を占めるのが4大輸入国である。日本はそのうち最大であり、総輸入額のうち31%を占める。台湾は久しく第3位であり、15年のシェアは10.9%であった。15年の4大輸入国のデータを比較すると日本からは前年比0.6%減、台湾が0.1%減と小幅減少に転じた。一方、ドイツは1.4%増、韓国が1.3%増と増加傾向を示した。16年および17年はドイツからの輸入が微増し、他3カ国は微減と見込まれる。

 ドイツ製は製品や技術に対しての評価が高く、また中国が日本製品に対する輸入制限を行ったことも輸入を押し上げている。韓国は自動車部品やラインを丸ごと輸出するなど、イメージ戦略や関税協定を結ぶ強みがあり、中国でシェアを押し上げる力となっている。

車軽量化がカギ

 中国で使われる工作機械のうち自動車部品の製造用は40―50%を占める。特に省エネや新エネルギー車はすでに「メイド・イン・チャイナ2025」計画で、製造業構造調整と転型昇級(モデルシフトとレベルアップ)の重要領域とみなされている。もちろん中国自動車産業での従来車と新エネ車のための軽量化技術はすでに共通した基礎技術である。

 軽量化は工作機械加工に影響を及ぼし、今後使用する部材(アルミ―マグネシウム合金や金属系複合材料など)により加工技術も変わるだろう。それゆえに工作機械メーカーは中国が自動車軽量化に向かう過程に注視し、新素材やそこから生まれる新たな加工技術をもとにツールの再設計や開発を行っている。

 一歩進んで現地の自動車メーカーと軽量化部材の製造に必要なツールの共同開発の機会を作ることで加工ニーズを把握し、それに合う加工設備の開発につなげられるであろう。

IEKの視点

 世界の工作機械市場は“新たな凡庸”の下、中国におけるミドルエンドおよびローエンド品の輸入額の継続的な減少、原油価格の下落、米国の利上げに伴う新興国のニーズへの影響、そして米国製造業の復活など、先の予測と合わない要素も発生している。こうした中で17年の世界全体の工作機械市場は7.4%減少を見込む。

 台湾企業については早い段階で中国製造業の転型昇級に理解を深め、製品構築を図るべきである。同時に台湾政府は積極的に工作機械に関係する応用製造事業(自動車、航空宇宙、金型、機械部品、情報通信機器など)の分野で中国側と異業種間の協業を通じ、中国製造業のモデルシフトと台湾製ツールのレベルアップを同時に達成させるべきである。

 また日本企業は台湾企業と協力し台湾に生産拠点を構え、日本製品を両岸経済協力枠組み協定(台中間のFTA、ECFA)における原産地ルールに適合させることで、中国の転型昇級の中で第一波の商機を捉えることができるとみている。

【11/16付本紙別刷「JIMTOF2016特集」より】

(2016/12/6 10:30)

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