[ オピニオン ]
(2016/12/15 05:00)
トランプ次期大統領への期待感から米国でドル高・株高・金利高という“トランプ相場”が形成され、それが連日のように勢いを増して、“トランプ・ラリー”と呼ばれている。ニューヨーク市場のダウ平均株価は先週、過去最高値を更新、市場関係者、投資家は沸き返っている。米国の株高に加えて、ドル高により1ドル110円台半ばまで円安となったことから、日経平均株価は年初来の最高値を更新している。この現象はいつまで続くのだろうか。
大統領選挙期間中、保護主義的な通商政策をアピールしたトランプ候補が勝利したら、世界経済に対する先行き警戒感が高まって金融市場に混乱が起きる“トランプ・リスク”が懸念された。為替市場では安全資産とされる日本円に買いが集まり、円高に推移するとの見方が広がった。しかし、実際にトランプ候補が勝つと、事前の警戒感はどこへやら、予想とは逆にトランプ相場が始まった。
その要因は大規模減税や巨額のインフラ投資、規制緩和といった経済政策が米国景気を押し上げるとの期待感が急速に広がったためだ。トランプ氏は「米国企業が海外に出ていくのを食い止めなければならない。法人税率を35%から15%まで引き下げる」「今後10年間で1兆ドル(115兆円)のインフラ投資を行う」としている。その財源確保の問題はともかく、米国の経済界や国民は大歓迎だ。
日本経済にとっても、米国景気が上向けば、円安と相まって自動車をはじめとする輸出企業の好業績につながるなど、追い風となるのは間違いない。
話を本題に戻そう。トランプ相場はいつまで続くのか。最も悲観的な見方は「すでに支援材料は出尽くしているため、今年でトランプ相場は終わる」というもの。現在の相場は期待だけに支えられている側面が大きいためだ。一方、楽観的な見方は「期待先行の相場とはいえ、期待を裏切る材料が出てくるまではこの流れが続く。来年の春まではいくだろう」という。両者の間を取って、「来年1月20日の大統領就任式まではこの流れが続くだろう」というのが妥当なところではないだろうか。
トランプ相場は次期大統領の一挙手一投足に左右されており、その他の動きはほとんど材料視されない。だが、トランプ氏が大統領に就任した後は議会とも歩調を合わせる必要が出てくる。その際、財政赤字に慎重な共和党執行部とどう折り合いをつけるかが注目される。またトランプ氏は「就任式当日に環太平洋連携協定(TPP)からの撤退を宣言する」としている。現時点ではあまり問題視されていない保護主義的な通商政策に批判が集まれば、トランプ相場に急ブレーキがかかることも考えられる。
円安基調に変化が現れるとすれば、何がきっかけになるだろう。これまでドル高を容認してきたトランプ氏だが、ドル高が輸出競争力を奪うことになる、と気づいたら、ドル高反対の立場に転じることもあり得る。このあたりはトランプ政権が動き出してみないことにはわからないことだ。このほか、財務長官就任が噂されるムニューチン氏がどのような立場を取るかも大きなポイントだ。トランプ氏の選挙参謀を務めた側近の一人で、ドル高論者といわれているが、実際に大型減税や大規模インフラ投資を財政面でどう支えていくかが注目される。ドル高一辺倒ではいかないだろう。
こうした米国の状況を踏まえつつ、日本としては米国に代わって自由貿易の旗降り役を担って、欧州諸国や中国、アジアの新興国との輸出入を維持すると同時に、構造改革、規制緩和などを推進して内需を拡大していくことが肝要だろう。
(論説委員・川崎 一)
(2016/12/15 05:00)