[ 自動車・輸送機 ]

【電子版】日本の自動車メーカーに新たな課題、IT人材獲得で賃金高騰懸念

(2016/12/31 11:30)

  • 日産自動車のカルロス・ゴーン社長(ブルームバーグ)

(ブルームバーグ)ヘッドハンターのケーシー・アベル氏は、日本の自動車メーカーのためにデータセンターの専門家を雇おうと、経営首脳が参加したものも含め顧客と5回の打ち合わせをするなど4カ月を費やした。結局、その情報技術(IT)の専門家はもっと高収入を求め海外の電子商取引会社を選んだ。

「報酬で大きな隔たりがあった」と人材紹介会社HCCRの採用担当マネージング・ディレクター、アベル氏は話した。IT人材を獲得しようとして1年を費やしたこともあるという。「年2000万円を稼ぐエンジニアを得ても、年700万ー900万円の伝統的な製造業の報酬体系に適応させようとすることになる」と語った。

トヨタ自動車や ホンダ、日産自動車には最高水準のIT人材を引きつけることの重要度が増している。こうした会社はライドシェアやクラウドを使った車のモニタリングなどIT関連サービスからの収益拡大を目指している。日産自の カルロス・ゴーン最高経営責任者(CEO)は、日本の自動車メーカーは米ウーバー・テクノロジーズやテスラ・モーターズのような新たな競合相手と「人材獲得の世界的な争奪戦」に負けるわけにいかないと話した。

日本でこうした人材を引き付けるには、銀行やテクノロジー企業など、どこも同じ人材を必要として求めており、大幅な賃上げが必要になるとアベル氏は述べた。自動車メーカーは「非常に厳格な予算の範囲内で運営しており、事業は一般的に低いマージンになっている」とみている。日本では国内人材が不足しており、テクノロジー企業創業の新潮流に比べて自動車産業が「成熟して緩慢なテンポになっている」との認識が欠けているという。

ホンダは人工知能(AI)技術開発を集約するため東京・赤坂に設置する研究所で、柔軟な報酬体系を採用しようとしている。日産自はソフトウエア開発などを担当する東京・中目黒の新オフィスでの報酬についてコメントを控えた。トヨタはコネクティッド・カー関連事業の会社やAIの研究所を米国に設置しており、競争力のある報酬を提供すると広報担当者は話している。

総合人材サービスのマンパワーグループの調査で、日本は人材確保が難しい上位3の職種にITが入り、2010年以降は世界で最も人材が不足してきた。経済産業省の 調査によると、日本でIT人材の不足は現状約17万人と推定され、30年までに最大約79万人になると推測している。

人材獲得競争は過熱している。日産自は10月、迅速なサービス開発のため中目黒に拠点を新設し、今後2年間でソフトウエア開発、クラウドエンジニアリング、データ分析、機械学習の分野で150人を採用すると発表した。ホンダは来年4月をめどに、赤坂の研究所にAI技術開発を集約しようと 検討している。

トヨタは11月にコネクティッド戦略を発表し、車から収集するビッグデータが故障や整備の必要性を予知するなど新たなサービスやビジネスを創出するとして、この分野の取り組みを加速させている。米シリコンバレーのAI研究拠点では、米国防省国防高等研究計画局(DARPA)で災害救助用ロボット競技大会を指揮したギル・プラット氏を採用し、トップクラスの人材を集めて開発チームを構築している。

こうした人材獲得には課題も指摘されている。車の開発サイクルは通常、何年にも及ぶことから、数週間でシステムを構築してきたプログラマーたちをいらいらさせる可能性があると、独自動車メーカー連合が買収した地図情報事業の ヒアのアジア太平洋地域責任者、マンダリ・カレシー氏は都内での取材に話した。「こうした人材はIT分野の経歴を身につけており、そうした長期のサイクルを想定していない」という。

この課題を強みに転換しようと決めたのが日産自だ。ルノー・日産連合でコネクティッド・カーとモビリティサービスを担当するシニア・バイス・プレジデントのオギ・レドジク氏によると、日産自が中目黒の新拠点で150人を採用するのは、長期雇用がシリコンバレーと比べて日本の強みになるとの判断もあった。経産省の調査によると、転職したことがないITの専門家は、米国の14%や中国の21%に対して、日本でほぼ5割だった。

「1、2年だけ在籍する人材を雇用する余裕はない」とレドジク氏は話した。レドジク氏は今年、地図情報事業のヒアからルノー・日産連合に転職した。「データ分析という基盤を構築したいのであれば、そうした人材が期待している報酬などについて、一定の水準があるという認識に至った」という。

原題:Japan’s Once-Dominant Carmakers Face Big Pay Hikes to Lure Geeks(抜粋)

(2016/12/31 11:30)

おすすめコンテンツ

「現場のプロ」×「DXリーダー」を育てる 決定版 学び直しのカイゼン全書

「現場のプロ」×「DXリーダー」を育てる 決定版 学び直しのカイゼン全書

2025年度版 技術士第二次試験「建設部門」<必須科目>論文対策キーワード

2025年度版 技術士第二次試験「建設部門」<必須科目>論文対策キーワード

技術士第二次試験「総合技術監理部門」択一式問題150選&論文試験対策 第3版

技術士第二次試験「総合技術監理部門」択一式問題150選&論文試験対策 第3版

GD&T(幾何公差設計法)活用術

GD&T(幾何公差設計法)活用術

NCプログラムの基礎〜マシニングセンタ編 上巻

NCプログラムの基礎〜マシニングセンタ編 上巻

金属加工シリーズ 研削加工の基礎 上巻

金属加工シリーズ 研削加工の基礎 上巻

Journagram→ Journagramとは

ご存知ですか?記事のご利用について

カレンダーから探す

閲覧ランキング
  • 今日
  • 今週

ソーシャルメディア

電子版からのお知らせ

日刊工業新聞社トピックス

セミナースケジュール

イベントスケジュール

もっと見る

PR

おすすめの本・雑誌・DVD

ニュースイッチ

企業リリース Powered by PR TIMES

大規模自然災害時の臨時ID発行はこちら

日刊工業新聞社関連サイト・サービス

マイクリップ機能は会員限定サービスです。

有料購読会員は最大300件の記事を保存することができます。

ログイン