[ オピニオン ]
(2017/2/9 05:00)
なにやら前世紀の話を聞いているような錯覚に陥った。就任したばかりのトランプ米大統領の言動だ。1960年代には日本からの繊維製品の輸出が問題になり、70年代には鉄鋼製品、カラーテレビ、80年代には自動車や半導体などの輸出が標的になった。
鉄鋼やカラーテレビなどは対米輸出の自主規制を実施した。半導体にいたっては日米半導体協定が交わされ、「外国製半導体の日本でのシェアを20%以上にする」ことが決められた。当時、世界の半分を占めていた日本製半導体のシェアはその後、低下して米国や韓国の後塵を拝している。
21世紀に入って16年余になるのに、再び日本の自動車がやり玉にあがるとは…という感は否めない。トランプ大統領はメキシコでの自動車製造も批判している。賃金が安く、北米自由貿易協定(NAFTA)で関税がかからないため、メキシコで自動車を生産して米国に輸出する戦略は、企業として当然だ。さらに同大統領は環太平洋連携協定(TPP)から離脱し、NAFTAも見直す方針だという。経済のグローバル化に背中を向けるのだろうか。
トランプ大統領は地球温暖化にも懐疑的だ。気候変動枠枠組み条約は90年代に採択、発効した。当時は気候変動に懐疑的な見方もあったが、観測・研究により現在では各国が温暖化対策に足並みをそろえ、「世界の平均気温上昇を産業革命以降の2度未満、できれば1.5度に抑える。そのために今世紀末には温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」というパリ協定が2016年に発効した。
「地球温暖化はでっちあげ」とするトランプ大統領は、すでに100以上の国と地域が参加する協定からの離脱をほのめかしている。石炭や石油をじゃぶじゃぶ使い、広い道路に大型の自動車を走らせるのだろうか。だが、企業でも一般消費者でも、製品がどこで作られたのかより高品質で低価格、さらに環境に配慮する人なら温室効果ガスの排出の少ないものを選ぶ。そうした製品の流入を規制すれば、米国民の負担が増すことになるだろう。
戦後世代にとって米国はあこがれの超大国だ。安倍晋三首相は10日にトランプ大統領と米国で会談する。2人仲良くゴルフに興じるのもよいが、米国が自由な貿易や気候変動対策で世界の国々と歩調を合わせ、今後ともあこがれの超大国でありつづけることを要請してほしい。
(論説委員・山崎和雄)
(2017/2/9 05:00)