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[ 中小・ベンチャー ]
(2017/2/9 16:30)
(ブルームバーグ)日本初の医師処方による疾患治療アプリの開発を手掛けるベンチャー企業「キュア・アップ」(東京都中央区)が、新規株式公開(IPO)を計画している。創業者で内科医の佐竹晃太社長が明らかにした。2020年に東京市場に上場させたい考えだ。
キュア・アップは医師が患者にスマートフォンなどを通じ医療行為を処方するアプリ開発を行っており、慶応大学と野村ホールディングスのベンチャーキャピタルやSBIホールディングス傘下の投資会社などから今月3億8000万円を調達した。資金は米国への進出や新規開発に充て事業拡大を進める。
日本では2014年に薬事法の一部が改正され、治療目的のアプリが医療機器として保険適用の対象となった。キュア・アップは現在、慶応大学病院と禁煙・生活習慣病アプリの臨床研究を実施中で、19年夏をめどに当局の承認を得たい考え。実現すれば、日本で初の治療アプリの事例となる。
例えば、禁煙外来には年間約50万人が訪れるとされ、その他生活習慣病治療など、医療という巨大市場には収益機会が広がっている。こうした中、キュア・アップは行動療法や服薬、通院など個別化した診療をスマホを通じてリアルタイムで提供、医師との面会頻度が少なく治療の管理も難しい医療環境の改善につなげる。
「未知の医療」
日本赤十字社医療センターで外来診療も行う佐竹社長(34)は、ブルームバーグ・ニュースとのインタビューで、「ソフトウエアで治療するという、新しく未知の医療の形がそこにはある」と語った。また「多額のお金を払い、会社を休んでまでも禁煙したいという人々がいる」と潜在的マーケットに言及した。
キュア・アップは年内に、米国進出のためカリフォルニア州にオフィスを設立する準備を進めているという。ニコチン依存症に続き今後は、脂肪肝、糖尿病、うつ病などの疾患を治療するアプリを毎年開発していきたい考えだ。
慶大と野村合弁の慶応イノベーション・イニシアチブの山岸広太郎社長は今回の投資について、「とても人気のある投資先で、投資家間の競争は激しかった」と述べた。その上で、「われわれは治療アプリが保険適用になると予期しており、収益性は高いとみている」と語った。
バーチャル・ナース
日本の喫煙率は約20%と先進国の中では依然として高い。佐竹氏によると、喫煙はさまざまな疾患を将来にわたり引き起こす一因とされ、たばこをやめたい人々が毎日禁煙外来を訪れている。しかし、医師による診察は2週間から1カ月に一度なのに診察時間は5分から10分程度で、途中で挫折する患者は多いという。
日本たばこ産業(JT)の調査によれば、2016年の喫煙者率は全国の男女合計で19.3%となった。21.1%だった12年から減少傾向にあるが、まだ5人に1人がたばこを吸っている。喫煙者率が5割程度だった1966年からは大きく減っている。
キュア・アップのアプリでは処方コード番号を入力すると患者自身の情報が入った画面にアクセスできる。バーチャルな女性看護師キャラクターが「おはようございます。今朝はたばこを吸いたい気分ですか」などと尋ね、「吸いたい」と答えると、無糖の炭酸水のそう快感で気分を紛らわすよう対処を指南する。
5分後にはナースは喫煙したい気持ちがなくなったか確認の連絡を行う。そして一服したい衝動にかられる昼食後には励ましやコーチングを施す。また医師も登場し、喫煙と健康に関する最新の論文を用いたレクチャーを行うことなどで、患者は次第にたばこを吸う動機付けを失っていくという。
AI、アルゴリズム
このアプリは担当医師側にも治療効果を高めるために働き掛けるのが特徴だ。患者の日々の取り組み状況について報告、今後の治療方針などをアドバイスする。患者の行動パターンなどを数値化して分析するアルゴリズムなど人工知能(AI)を用いて、禁煙への取り組みを後押しする。
「デジタル・ヘルスはわれわれのファンドが注力する最も重要な領域だ」と慶応イニシアチブの山岸社長は述べた。また日本は少子高齢化という構造的な問題を抱えており、医療費削減につながるこうした事業の重要性を指摘。キュア・アップは「パイプラインにいくつもの案件があり、海外での成長も見込める」と出資の理由を語った。
(2017/2/9 16:30)