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[ 科学技術・大学 ]
(2017/3/10 05:00)
2011年の東日本大震災以降も多くの災害が日本を襲っている。16年は熊本地震や台風10号の東北地方への上陸など大きな爪痕を残した。地球を回る人工衛星は宇宙から地震や火山の噴火、洪水などの自然災害を監視する役割を担う。日本単独ではなく、全世界で災害時に協力する仕組みが整いつつある。(冨井哲雄)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、陸域観測技術衛星「だいち2号」を活用し、宇宙からさまざまな自然災害を監視し、衛星画像を提供している。だいち2号は「合成開口レーダー」(SAR)と呼ばれる装置を搭載。地球の地表に向け電波を放出し、その反射波を調べることで、災害の発生前後の地殻や地盤の微小な変化を捉えられる。
16年は4月の熊本地震や10月の鳥取県中部地震など地震の規模を示すマグニチュード(M)6以上の地震が多く発生した。特に鳥取県中部地震では、だいち2号の今までのデータの蓄積が生かされ、高精度の3次元の地殻変動マップを作ることに成功した。先進レーダ衛星プロジェクトチームの鈴木新一プロジェクトマネージャは、「14年から蓄積してきたデータが威力を発揮した」と強調する。今後も衛星によるデータを蓄積し、19年には現状の約3倍の性能となる年間5ミリメートルの微小な地殻変動をとらえられるようになる。
JAXAは20年度に先進光学衛星と先進レーダー衛星を軌道に投入する計画だ。「先進光学衛星は1メートル以下の空間分解能があり、いままで困難だった1車線の道路の通行状況がわかるようになる」(鈴木プロジェクトマネージャ)という。災害監視体制の強化が期待される。
災害への取り組みに関して、国際的な協力体制の構築も進む。日本は「センチネル・アジア」や「国際災害チャータ」などの国際的な災害協力の枠組みに参加。東日本大震災や熊本地震では海外の衛星データの提供を受けた。16年5月のカナダ森林火災や同年8月のイタリア中部地震では日本側も積極的な国際貢献を行っている。
またイタリアとは2国間での衛星データの協力を先行して進めている。イタリアの気象・地球観測衛星「CSK」で日本全土を観測してベースマップを作り、災害観測時に変化が見られるよう準備を進めている。特にCSKが使う「Xバンド」はだいち2号での観測が難しい都市部での観測が期待されている。 各国の衛星の利点を生かした協力関係の構築が今後ますます重要となるだろう。
(2017/3/10 05:00)