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[ 科学技術・大学 ]
(2017/3/10 05:00)
東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故の発生から11日で6年がたつ。廃炉作業は着々と進むものの、終了までは40年程度の長い年月が必要といわれる。原子力関連の研究を行う大学では、廃炉を後押しするため、次世代を担う人材の育成や廃炉に有用な技術開発を進めている。(福沢尚季)
【人材離れ歯止め】
東京工業大学の先導原子力研究所は、文部科学省の廃炉関連の人材育成プログラムに取り組む。放射性物質や核燃料物質をはじめ、ロボットを使った実験を通し、実際に機器などを触った経験のある人材を育てている。
さらに廃炉の最新技術と基礎に関する講義をはじめ、東京電力やアトックス(東京都港区)、日本原子力発電(東京都千代田区)がもつ原子力施設へのインターンシップ(就業体験)などを実施。その結果、就職先として廃炉関連企業への関心を持つ学生が増えたという。産業界では近年、若い原子力人材の減少が危惧されているが、そういった状況に歯止めをかけるべく尽力している。
【鋳物から着想】
廃止措置に有用な技術開発も着実に進む。炉心溶融が発生した福島第一原発の内部を調査するため、ロボットの投入などさまざまな方法を試している。だが、高線量に阻まれて、燃料デブリの位置や形状は依然として詳細が不明だ。
福井大学附属国際原子力工学研究所の一宮正和客員教授は、粒子の運動を高精度に計算する「SPH法」と鋳物を使い、原子炉の燃料が炉心溶融によって溶け落ち、固まっていく過程を計算する手法を開発した。溶けた燃料が冷えて固まる様子が鋳物を作る過程と似ている点に着目したもので、横浜国立大学との共同研究。燃料デブリの形状の把握や、鋳物製品の不良品防止などに役立てられる可能性がある。
研究では、円すいの型の中に流し込んだ液体状の鋳物(溶湯)が固まる様子を観察した。溶湯は鋳物の型に触れる部分から温度が低下。溶湯が固まり密度が上がるにつれて、内部に空洞(引け巣)ができることを突き止めた。そのことから、燃料デブリの内部にも空洞ができている可能性を示した。
従来、燃料デブリの形状のシミュレーションは格子状で定義された情報に基づいて計算するため、大きな形状変化を精度良く推定できなかった。こうした研究は廃炉だけでなく、産業応用にも有用だという。
【共同研究に期待】
一方、東工大が1月に開いた廃炉関連の人材育成フォーラムでは、学生から「大学の研究がどのように廃炉作業に採用されるかが分かれば、モチベーションが上がるので知りたい」と質問が出た。
これに対し、国際廃炉研究開発機構(IRID)の吉澤厚文専務理事は「IRIDでやっているのは現場ですぐに使えるような段階にする最後の仕上げの部分だ。企業と組んで研究を現実的にしていくなど、いくつかのステップを踏んでいく必要がある」と述べ、大学の研究と廃炉の現場の溝を痛感している。
そこで、大学の研究を廃炉に生かすべく企業との共同研究の増加に期待する声が上がっている。東工大の小原徹教授は「共同研究ができると資金的にも助かるし、具体的に何をすれば良いかが明確に分かる。さらに、学生のモチベーションも上がるのでは」と話す。
共同研究で専門的な知見を得た学生は、卒業後に即戦力としての活躍も期待できる。大学と企業の共同研究を後押しするような制度設計が実現すれば、より活発な人材育成や研究開発も可能だ。
(2017/3/10 05:00)