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(2017/5/23 05:00)
三井三池製作所 精密機器事業本部金型技術センター センター長 森川 泰幹
厚板の鋼材を打ち抜き、高い精度の製品が得られるファインブランキング(FB)は、スイスで生まれ1920年代に特許出願された技術である。立体的な成形加工も同時に行えることから、機械加工などの後工程を削減することが可能であり、原価低減につながっている。今なお自動車産業を中心に広く活用され、大量生産を支えているが、国内での需要状況と機械構成部品の変化、また、より高度な品質要求への対応が求められている。
【FBの技術的概要】
機械を構成する金属部品の主要な製作法であるプレス加工は、その生産性、安定性などから量産部品に多用されている。
一般には部品の精度が高くなるほど嵌合(かんごう)や面粗さなどの公差が満足せず、機械加工などの後加工が必要となる。しかし精密剪断法の一つであるFBは、汎用剪断と比較すると、高い精度と平滑な切断面が得られ、後工程の仕上げ加工を削減することができる。
汎用剪断加工では、基本的に製品形状を持つダイとパンチにより板材を打ち抜くが、その切断面の多くは破断により生成され、寸法や面の精度を悪化させる。
FBではスクラップとなる製品外周部をダイと板抑えで、製品部をパンチと逆押しでそれぞれ加圧、拘束した状態で剪断を行う。圧縮応力下で加工することにより破断を抑制し、良好な剪断面を得ることが可能となる。また外周形状とピアシングを同時に行うことができ、製品の湾曲も抑制されることなどから製品精度が向上する。
このほかに特徴として挙げられるのが、ボス出しやザグリ、減肉、増肉などの冷間鍛造に類する成形加工を同時に行える点である。
このような特徴から、外周切断面に機能が必要となる、自動車用ドアロックのラッチ、農業機械用の歯車など幅広く利用されている。平歯車を例に取ると、通常であれば旋盤などで素材を切り出し、歯切り加工が必要となるが、FB加工では、軽め穴や中央穴にスプラインがある場合でも1ショットで成形が可能であり、工数が削減される。
被加工材としては、炭素鋼、合金鋼など多くの実績があるが、炭素量や球状化焼鈍の状態により、切断面の品質や金型の寿命に影響し、製品形状や加工板厚にも制限を受ける。ステンレス鋼や工具鋼の場合も、その成分により難易度が異なるため、実際に試験を行った上で判断する必要がある。
加工可能な板厚も材質、形状により、条件が良ければ25ミリメートル程度までとも言われるが、このところの引き合いで多いのは5ミリ~8ミリメートル程度である。加工精度はJIS7級程度を目安としているが、より高い精度の要求も多く、十分な検討が必要である。
【FBを取り巻く環境の変化】
これまでさまざまな分野で生産性の向上や原価低減に貢献してきたFBであるが、需要の状況は変化している。
日本でFBの利用が広まった1960年代後半は、100―200トンプレスが主流であり、小物部品の生産が多かった。しかし自動車部品への適用が増加する中で、厚物や多数個取りに対応するため、現在は300―800トンプレスが多用され1500トンを超えるプレス機も使用されている。
小物部品については、機械式の時計やタイプライターなどのように、電子化の中で部品の需要自体が減少しているものや樹脂素材の発達により射出成形品に置き換わっていったものも多い。また厚物であっても、汎用プレス機の精度向上やサーボプレスの利用により、FB以外の工法で生産可能となった製品もある。
生産状況の変化としては、顧客からのグローバル調達方針や原価低減の要求もあり、技術的に安定し生産量の多いものは、海外拠点での生産へと移行している。
【未来を切り開くために-多様化する要求への対応】
FBは被加工材の塑性という基本的な物性を利用したものだけに、加工可能な形状に制約を受ける場合も多い。しかし以前は困難と判断していた形状や精度でも、生産が可能となったものも少なくない。これらは金型設計上の工夫もあるが、被加工材、金型材料、熱処理、表面処理、加工油などの進化をはじめ、工作機械の精度向上など、関連技術の積み重ねによるところが大きい。
今後も精度の向上や難削材加工、冷間鍛造を複合した形状など対応の幅を広げ、現在の工法からの転換や、これから必要とされる機械構成部品への適用を提案していく必要がある。そのためには、いま一度、理論に立ち返り、解析技術なども活用しながら、開発期間の短縮にも努めなければならない。また多様な産業へ対応していくための生産体制、品質保証体制づくりも課題となっている。
(2017/5/23 05:00)