[ 機械 ]
(2017/6/21 13:00)
プレス加工製品を生産するにはプレス加工3要素(形づくる金型+製品の顔となる被加工材+加工に必要な力を生み出すプレス機械)が必要不可欠であることはすでに理解されているだろう。その際、プレス機械の選択には加工に見合った荷重を求めることが必要となる。たとえば、3次元の立体形状(絞り製品)を絞り加工するために必要な加工荷重を求める計算式の多くは、最大加工荷重を求めている。しかしながら、実際の絞り加工では、瞬間的に最も大きい力を表す「最大加工荷重」(瞬発力と考える)だけでプレス機械を選択することは難しい。
たとえば、自動車を購入する際に、最高時速だけで選択することは通常しない。燃費や加速、トルクなどを総合的に検討した上で決めるのが一般的だ。多くの加工機械も同様である。プレス機械だけが「加工荷重」のみで選択されるのはおかしいと思えないだろうか。
今回は、前回までの「絞り加工」の多様なイメージを総動員して、絞り加工の絞り荷重を中心にプレス加工全体を俯瞰して、必要な能力を瞬発力と持久力の両面から検討してみよう。
【塑性加工教育訓練研究所 代表 小渡 邦昭(こわたり くにあき)】
「絞り加工」を俯瞰してみよう
最初に、絞り加工のプロセスを思い出してみよう。繰り返しになるが、再度、今回、説明を加える際に確認できるように、図1 の「絞り金型」の各部名称と役割を利用して俯瞰してみる。
1.プレス機械の動きから見ると
では、最初に全体を見渡すことが可能なプレス機械の動きと「絞り加工」を重ね合わせてみよう。図2のように、「絞り加工」では、製品の高さが大きいほど、パンチの移動量が長くなる。このことは、そのパンチが被加工材に接触してから必要な加工高さを得るまで移動している間、常に加工するための加工力(荷重)が必要ということである(実際には、しわ押さえが始まる段階からわずかであるが荷重を必要とする)。
ここに、プレス作業者や金型設計者が注意すべき点が隠れている。絞り加工では、加工が終了した製品を金型内から取り出す必要がある。だから、最低限であるが、製品の高さの距離がプレス機械のスライドが最も高い位置にあるときに上型と下型の隙間が製品高さ以上なければ、製品を取り出すことができないことに注意すべきである(図3)。
さらに、ここに勘違いしやすい点がある。「スライド調整量」である。スライドは、ねじを回転させることで一定の距離、スライドの位置を調整する機能がある。スライドが上下して得られる上死点と下死点の往復する移動量である「ストローク長さ」の調整機能と捉えがちだが、これは間違いで、ストロークはクランク軸を変更しない限り変えることはできない。しかしながら、この「スライド調整量」には、以下のように一長一短がある。
○スライド調整なし(固定)ならば
⇒スライドが固定ならば。多くの金型を同じ高さに製作する必要がある。結果として、必要以上の大きな(プレートの厚さ)金型の製作につながる。
⇒プレス作業で「スライド調整」が必要ないので、作業の効率化や金型設計の統一化でミス防止にもなる。
○スライド調整があるならば
⇒多様な金型を利用してプレス加工を行う企業では、1 つのプレス機械で多様な金型を使用できる(図 4)。
2.絞り荷重から見ると
「絞り加工」において、絞り荷重に関与する要因が多々ある。たとえば、被加工材がダイ穴に進む際の摩擦や曲げ・曲げ戻しなどの関与が考えらえる。ここで「曲げ戻し」を確認しておこう。図5 のように、1 度ダイ肩の円弧部(ダイR 部)を曲げられるようにダイ穴へ通過すると、曲げられた部分はパンチ頭部に引っ張られて直線状に戻されるように変形する。この過程を「曲げ戻し」という。
この過程も絞り荷重を構成する要因ではあるが、実際に実験等でこれらの力(摩擦や曲げ・曲げ戻しで消費される力)を測定するならば、その大きさは、全体の絞り荷重と比較するならば、わずかであり無視できる範囲である。
では、いったい、何が「絞り荷重」を左右しているのだろう。「絞り荷重」の基本的な考え方は、「せん断荷重」と同様である。つまり、実際に「せん断」される場所のように、被加工材が変形しているところに注目することである。すなわち
変形(せん断)が生じる部分の面積×そのときの変形抵抗(せん断されまいとする抵抗)=せん断荷重
という考え方で「絞り荷重」を考えるならば
変形が起きる面積×そのときの変形されまいとする抵抗=絞り荷重
となるのではないでしょうか。
これは、前回の「絞り加工」をイメージする際に示したフランジ部分での「椅子取りゲーム」(図 6)が起きているように、被加工材の板幅や板厚方向の変形に必要な荷重が、絞り加工の絞り荷重も大部分を占めていると考えることができる。
(1)最初に変形が起きる面積で考える
①フランジ外周部が変形を受けながら、ダイ穴に流れ込む際、最初の段階は、わずかな変形である。また、その際のフランジ部の面積は、パンチが被加工材に接触した段階をイメージするならば、最も広い面積がしわ押さえとダイに挟まれていることが理解できる
②その後絞り加工が進むにつれ、変形が起きる面積は減少する
③フランジが残る場合と完全にフランジを残さずに絞り加工される場合では異なる
一方の「変形されまいとする抵抗」は、絞り加工における「変形抵抗」ということができる。
(2)変形抵抗の変化も加工プロセスで考える
①最初は、フランジ部分が容易に塑性変形する
②しかしながら、「変形抵抗」は加工が進むにつれて、大きくなる。このことは、「加工硬化」から明らかであろう。つまり、同じ変形量に対して、当初の必要な荷重が変化して、より大きな荷重が必要になる
③さらに、加工を進めると加工硬化は進み、より大きな荷重が加工に必要になる
というような変形抵抗の変化が生じていることがわかる。では、これらの 2 つの関係を組み合わせてみる。その結果として図8のようになることがわかる。つまり、加工硬化で変形するための抵抗が上昇しても、ある位置までで、フランジ面積が減少することで絞り荷重が減少することは明らかである。このことから、おおよそ、加工の中間で乗算(変形が起きる面積:フランジ面積×変形されまいとする抵抗:変形抵抗=絞り荷重)した絞り荷重が最大値をとることが理解できる。
(2017/6/21 13:00)