[ 機械 ]
(2017/6/22 13:30)
プレス加工製品を生産するにはプレス加工3要素(形づくる金型+製品の顔となる被加工材+加工に必要な力を生み出すプレス機械)が必要不可欠であることはすでに理解されているだろう。その際、プレス機械の選択には加工に見合った荷重を求めることが必要となる。たとえば、3次元の立体形状(絞り製品)を絞り加工するために必要な加工荷重を求める計算式の多くは、最大加工荷重を求めている。しかしながら、実際の絞り加工では、瞬間的に最も大きい力を表す「最大加工荷重」(瞬発力と考える)だけでプレス機械を選択することは難しい。
たとえば、自動車を購入する際に、最高時速だけで選択することは通常しない。燃費や加速、トルクなどを総合的に検討した上で決めるのが一般的だ。多くの加工機械も同様である。プレス機械だけが「加工荷重」のみで選択されるのはおかしいと思えないだろうか。
今回は、前回までの「絞り加工」の多様なイメージを総動員して、絞り加工の絞り荷重を中心にプレス加工全体を俯瞰して、必要な能力を瞬発力と持久力の両面から検討してみよう。
【塑性加工教育訓練研究所 代表 小渡 邦昭(こわたり くにあき)】
→イメージでつかむ「抜き」「曲げ」「絞り」の原理・原則/プレス機械は加工荷重だけで選択できない(上)
原理を確認して新たなイメージを
もう一度、絞り荷重=フランジ面積×変形抵抗を眺めてみる。加工プロセスでの絞り荷重が、2要素(フランジ面積と変形抵抗)に支配されていることがわかる。
つまり、この2つの1つまたは同時に2つを減少させることができるならば、当然ながら絞り荷重を減らことが可能になる。
具体的には変形抵抗を減少させる方法は、被加工材を動きやすくしてあげればよい。身近な現象で考えるならば、「鉄は熱いうちに打て」というように、被加工材は加熱することで容易に変形することはご存知であろう。被加工材の加工温度を上昇させることで変形抵抗を減少させることが可能になる。また、温度上昇は、変形抵抗だけでなく、「伸び」を大きくする効果もある。これも、身近な「飴づくり」からも容易にイメージできるであろう。また、刀鍛冶などが鉄を赤く加熱して硬い鉄が飴細工のように形を変えていく様子をテレビなどで目にすることもあるだろう。
これらから、変形するフランジ部分を加熱すことで変形抵抗を減らし、絞り荷重を低減可能と考えることができる(図 10)。
一方のフランジ面積で考えてみるならば、まず1番先に「フランジ面積を減らす」ことを思い浮かべるであろう。同時に、プレス加工する製品の被加工材(素材費ということも)のコストに占める割合は大きいので必要最低限の被加工材の面積が計算されていると考えるであろう。さらに絞り加工後に、均一な製品形状にするために、フランジ部分を切り落とすことが行われる。この部分は、まさしく「スクラップ」となる。だから、フランジ面積を減らすことを単純に実施するのは難しいので、切り落とされるフランジ部分を事前に穴空けなどを行い、強制的に変形が行われるフランジ面積減少を考えることができる(図 11)。
プレス加工のエネルギー(仕事量) を考える
まずは、「仕事量」から考えてみよう。ある物体の力を加えて移動(変位を与える)ことを「体に仕事をする」いう。また、仕事の量を定量的に表す量を「仕事量」という
F:力
X:距離 とすると
F=F・x
と表すことができる。(図 12)
クランクプレスを利用して「絞り加工」を行って、「絞り荷重」だけを考えて、プレス作業を行う際に、クランクプレスを加工途中で「停止」させてしまうことがある。
これは、「瞬発力」だけを考えて、「持久力」を考えなかったことが原因である。もう 1 度、絞り加工のプロセスを見れば、気が付くであろう。つまり、「絞り加工」では、必要な力は、絞り加工の初期段階(少なくとも絞り加工される製品の高さ)から製品ができる絞り製品の高さ分(プレス加工での下死点)まで、力を与え続けなければならない。つまり、これが「持久力」である。
この絞り加工プロセスで、力が最大になるところを「絞り荷重」と言って、「瞬発力」と考えることは、実態とはかけ離れていることが理解できるだろう。
この背景には、クランクプレスのフライホイールの回転で蓄積されたエネルギーをクランク軸の回転とプレス加工で消費され、次回のプレス加工の始まりまでにエネルギーを 100% 回復することで、連続してプレス加工が可能になるということを、確実に理解することである(図 13)。
プレス機械の持つエネルギーとプレス加工で消費するエネルギーとの関係が重要なポイントになる。だから、実際のプレス加工において、必ず、生産プロセスや加工荷重(発生位置)を考慮して「プレス機械の持つエネルギー」>「プレス加工で消費するエネルギー」の関係を守ることが必要不可欠である(図 14)。
想定外を考えよう
確かに、「こんなことはあり得ない」と多少現実味が感じられない事例をいくつか例示したが、この位自由な発想がこれからの「技術革新」には必要と考える。以上のことは、「わざわざ書かなくてもわかる」と思われる方々もおられると思うが、ここでは、個々の現象である絞り荷重とトラブルを別々に考えるのではなく、絞り荷重に関与する要素は、絞り加工トラブルにも関与していることを再確認していくことが狙いである。
(2017/6/22 13:30)