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[ 科学技術・大学 ]
(2017/6/20 18:00)
マンチェスター大学は英国でも有数の研究開発型大学で、とくに材料研究に定評がある。このほど同大学の材料技術をベースにしたクロミション、ヴェルサリエンというベンチャー企業2社の代表が来日。事業パートナーとなる日本企業を募集するとともに、光電子工学に基づくナノ材料や、グラフェンといった自社技術をアピールした。
クロミション:発光性ポリマー粒子や水溶性の半導体インクなど
クロミション(Chromition)は、マンチェスター大の研究員だったマーク・マカーンCEOと、同大のマイク・ターナー教授の技術をもとに2014年に創業。さまざまな機能を持つ3種類のナノ材料に特色がある。
まず、青・緑・赤色を発する発光性ポリマーナノ粒子の「ルミスフィア」。バイオイメージング分野でがん組織に色をつけて検知するのに活用できるほか、偽造防止や照明デバイスへの応用が見込まれている。
「エレクスフィア」は室温で水溶性インクとして使える半導体ポリマーナノ粒子。紙やプラスチックなどさまざまな材料に加工できる。空気中で基板上に半導体ポリマーの溶液を塗布し、アニーリング(焼きなまし)することで印刷方式による太陽電池なども作製できるという。
さらに、高い誘電特性を持つ「ダイエレクスフィア」は、1ボルト以下の低電力で動作する次世代モバイル機器や低電力センサーなどのリジッド基板、フレキシブル基板、高誘電性基板の印刷に利用される。
マカーンCEOはパートナー企業と連携することで、「ルミスフィアでは量産体制を整え、エレクスフィアでは応用用途を開拓したい」と話す。
ヴェルサリエン:グラフェンで製造特許、パウダーとインクを提供
一方、マンチェスター大といえば、高い機械強度と電気伝導性を持つ2次元炭素ナノ材料のグラフェンでも有名。グラフェンを初めて作製した功績により、同大のアンドレ・ガイム教授とコンスタンチン・ノボセロフ教授が2010年にノーベル物理学賞を受賞した。2010年設立で同大発のヴェルサリエン(Versarien)は、このグラフェンの有力サプライヤーだ。
同社は、グラフェンが積層したグラファイト(黒鉛)を機械的および化学的に1層ずつ剥離する方式でそれぞれ特許を持つ。
製品は大きく分けて2種類あり、マンチェスター大で開発された技術はグラフェンのパウダー。「サイズが大きく、他の素材と混ぜて使う。品質では世界一だと思っている」と同社のネイル・リケッツCEOは胸を張る。
例えば、ポリアリルエーテルケトン(PAEK)素材にグラフェンを3%混ぜ込むと強度が26%向上。カーボンファイバーでも55%強度が上がった。シリコーンやラテックス、ナイロン、ポリプロピレンなどに混入すれば製品の小型軽量化に役立てられるほか、バッテリーの電極に混ぜることで電池寿命も延ばせるとしている。
また、ケンブリッジ大からの技術をもとにグラフェンのインクも商品化。その高い電導性を生かし、印刷で電子回路を作るプリンテッド・エレクトロニクス向けに供給している。印刷面が曲がると抵抗が変化することから、センサーにも応用可能。製品化に向け、大手印刷会社と協業しているという。
ただ、普及のうえでハードルとなるのがグラフェンの値段の高さ。同CEOによれば、1グラム当たり400ポンド(約5万6000円)もする。スイス・ジュネーブで1月に開催された国際時計見本市のSIHH(ジュネーブサロン)では、マンチェスター大も製作に協力し、グラフェンによる複合素材を本体に採用した機械式腕時計が公開された。重量は40グラムしかなく、世界最軽量。それに対し、値段は一品物ということもあり、130万ドルもする。
とはいえ、グラフェンの価格動向についてリケッツCEOは楽観的。「2025年にはグラフェンの需要が5万4000トン程度に拡大すると言われている。量産が進めば、価格は原材料である黒鉛の価格に近付いていく」と見ている。
(2017/6/20 18:00)