[ 機械 ]

日本の工作機械産業が直面する構造変化(下)航空宇宙業界への期待と新興国の台頭、技術承継への危機感

(2017/6/27 13:00)

  • 図5 航空機製造のサプライチェーンにおける工作機械の位置づけ

【日本政策投資銀行産業調査部 副調査役 大沼 久美】

【日本経済研究所 ソリューション本部 ソリューション部 研究主幹 分部 隆夫】

→日本の工作機械産業が直面する構造変化(上)生産高中国に次ぎ世界第2位 外需比率低下、新分野に期待

航空宇宙業界における工作機械の活躍

 近年、国産民間旅客機の開発計画や航空旅客需要の拡大などを受け、航空機製造産業に注目が集まっている。航空機産業のサプライチェーンは、機体・エンジンメーカーを頂点とし、当該企業と直接取引を行う部品メーカーであるティア1、さらに部品メーカーに対し部品や素材の提供、加工や組み立てなどのサービスを提供する企業がティア2、ティア3に位置している。このサプライチェーン全体を支えるインフラとして工作機械が存在する(図5)。

 工作機械は航空機エンジンや機体などのさまざまな部品の加工に用いられる。自動車などに比べ、より一層の信頼性、安全性、軽量化、高性能が要求される。加えて昨今は加工の難しい部材が採用されるケースが増加しており、高性能な工作機械の需要が高まっている。

 航空機の機体はかつては大半がアルミニウムを用いて製造されていたが、さらなる軽量化・高強度化に対する要請から、近年は金属やプラスチック、セラミックスなどからなる複合材料や、チタンなどを含む合金の活用が進んでいる。例えば、ボーイング787では従来機に比べアルミの割合が全体の約2割にまで減少し、代わりにチタンが約15%、複合材料が約5割近くを占める。

 またジェットエンジンは、高温・高圧状態での耐性を高めるため、部品はニッケル基耐熱合金で製造されている。これらの素材は部品素材として優れた特性を有する半面、加工では技術的な壁となっており、複雑加工が可能な5軸加工機や高硬度合金・炭素繊維強化プラスチック(CFRP)に対応した技術を搭載する工作機械などは、航空機製造にとって欠かせない存在となっている。

 なお、最近では従来の切削・成形加工に加え、第3の加工法である積層造形が可能な3Dプリンターの活用が始まっており、航空機製造でもコストと時間削減のため、積極的な導入の動きが見られる。

 一部の企業では、次世代機の航空エンジン用部品を3Dプリンターで製造し、試験的利用も進め、同分野の研究開発や、関連企業の買収などに積極的な姿勢も見せている。

 同製品は従来型工作機械の脅威となり得る存在である一方、積層造形の機能を融合させた新型工作機械も登場しており、今後、従来のモノづくりが大きく変容する可能性も秘めている。

新興国の台頭、技術承継への危機感

 日本の工作機械産業をめぐる環境をみると、航空機製造向けの増加に対する期待と言った前向きな動きも見られるが、全体としては大きな構造変化に直面しているといえるだろう。

 まず、工作機械産業の生産・消費双方において「新興国の台頭」が見られる。受注の多くを外需に依存する日本には、新興国での需要高度化に伴うハイエンド製品の需要拡大がビジネスの機会となり得る一方、新興国企業の技術向上による競争激化など、脅威となる側面もある。

 また、日本やドイツなどの工作機械先進国において、高齢化の進展や技術を有する若年労働者層の減少により、モノづくりにかかる技術承継への危機感が生まれている。実際、当行設備投資計画調査の企業行動意識調査をみても、製造業では技術部門の後継人材、研究開発の専門人材などが不足しているなど「人材の不足」に関する回答が多かった。

 こうした背景と製造現場へのIoT(モノのインターネット)技術導入などが原動力となり、工作機械と産業用ロボット、さらに労働者との融合が進み、製造業の現場が急速に変化していくことが見込まれている。一部の先進企業では、熟練工の技術をセンシングやデータベース化などで残す取り組みが始まっており、今後の動向がより一層注視される。

 そして「IoT化の進展」があらゆる産業レベルで起きていることが追い風となり、今後、研究開発のオープン化やインターフェースのモジュール化による製品設計の変化が加速する可能性がある。 特に米国やドイツでは、開発の各段階の成果をまとめてパッケージにし、プラットフォームとしてユーザーへ提供することについて検討が進んでいる。日本でも類似の施策は進みつつあるが、高い技術にさらに磨きをかけている従来の日本メーカーとは、異なるアプローチである。将来的には、このように発想を異にする欧米勢と日本企業が競合する可能性も考えられる(図6)。

  • 図6 日本の工作機械が直面する構造変化

 こうした事業環境変化は、高い技術力を有する日本メーカーにとってチャンスでもある。日本企業が複数の選択肢を検討の上で自社の強みを再定義し、必要に応じて自前主義からの一部脱却も視野に、変化に対応する戦略を打ち出すことが求められよう。

(2017年3月15日 日刊工業新聞第2部「工作機械産業」特集より)

→ MF-Tokyo2017特集

(2017/6/27 13:00)

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