[ 機械 ]
(2017/7/4 13:00)
はじめに
このたび金属プレス加工会社に就職された皆様「ようこそ金属プレス加工メーカー」へ。近年若者の人口減少やモノづくりへの興味の薄れから、金属プレス加工会社では新たな人材の確保が難しくなっている状況の中で金属プレス加工会社に就職された皆様には、ぜひとも今後の金属プレス加工業界を背負っていくような人材になっていただくことを願いながら、この総論を執筆している。また新入社員の方以外にも、ものづくり部門以外の方や専門的ではないが金属プレス加工について何らかの関わりがある方、とにかく金属プレス加工に興味があり、金属プレス加工についての全体像を広く・浅く理解したいという方にも読んでいただければ幸いである。
金属プレス加工の世界は、決して華やかな世界ではないが、大量生産の製品には、加工速度が速く、高効率な生産ができること、複雑な形状の製品であっても均一な精度の加工ができるという理由から多くの部品がプレス加工で生産されている。しかし、プレス加工を行うためには事前に「金型」をつくる必要があり、「金型」を製作するためには、高度で幅広い工学的な知識と技能が必要になる。またプレス加工では、騒音や振動が伴う加工であり、作業には危険が伴う場合もある。
そんな金属プレス世界だが、日本では今日までプレス加工のメリットを生かしデメリットを克服しながら発展し、日本が世界に誇れる技術の1つとなっているのだ。
本特集では、皆様が一日も早く金属プレス加工についての理解が深まり、その魅力を理解してもらえるよう、一般的な金属プレス加工会社の仕事の流れと、各部署の仕事内容や使用される機器類について、その名称や用途・特徴を、なるべく簡単な言葉で解説する。
【高度ポリテクセンター 中杉晴久】
→【プレス技術】来れ新入社員 ようこそ、金属プレス加工メーカーへ(下)
金属プレス加工会社を取り巻く状況
私がプレス加工に携わり30年が経とうとしている。その間金属プレス加工を取り巻く状況は大きく変化した。30年前は、自動車はもちろん、ビデオやオーディオ機器そのほかの家電製品にも多くの金属プレス部品が使われ、金属プレス加工会社は多くの利益を上げていた。その後バブルの崩壊や急速な海外への生産シフトにより、金属プレス加工業にとっては厳しい状況が続いている。
しかし、このような状況であっても技術革新や新たな産業分野の開拓により金属プレス部品の需要を見出し、存在感を高めた企業も少なくない。プレス加工の技術の進歩は、「より軽く、より小さく、より早く、より安く…」といった製品に対する要求がある限り続くと思われる。
金属プレス加工会社は中小企業が中心だが、絶えず技術革新を続けることで競争力を高め、日本のモノづくりを支えてきた。では技術革新を進める原動力となっているものは何なのだろうか。私が知っている金属プレス加工会社の方は「元気な人」が多い。そして誰もが自分の仕事に誇りを持って働いている。会社でつくっている金属プレス加工部品は、最終的な製品からは見えないものが多く一般的には馴染みが薄く、職場は3Kのイメージが強い。しかし、世界に誇る日本の技術力を支える産業であることが間違いない。金属プレス加工会社の売り物は金属プレス製品だが、実際はその部品をつくり上げることができる「技術力」なのだ。「金属プレス加工には金型が必要になるが、金属プレス部品は高付加価値化により、プレス金型の設計・製作にも以前に比べて高度化な技術力が必要」となった。そしてそれに比例してそこで働く人の試行錯誤も増えた。しかし、金型をつくり上げる度に「いいものができた」という満足感と充実感が得られ、次の難題に挑む原動力となっているのではないだろうか。技術力は自らが努力し挑戦して培われたものであるから、つくり上げた金型は自信と誇りに満ち溢れたものになる。
技術と人材(人財)
金属プレス加工会社を支える人材は、高度で幅広い工学的な知識が必要となる。その多くは現場経験により培われるため、人材育成に長い時間がかかる。その一方で少子高齢化や若者の理工系離れなどから、若手人材確保が難しい状況となっており、次の時代を担う人材の確保が心配されている。製品の高付加価値化の推進や新たな顧客確保のための技術力の増強には、設備的な投資はもちろんであるが、金属プレス会社にとっては新たな若手人材の確保も重要な課題である。
戦国最強と言われた甲斐の武田信玄の有名な言葉に
「人は城、人は石垣、人は堀、情けは…」
がある。まさにプレス加工で生産される製品も「人」という「石垣」の上に成り立っている。
製品の信頼性はその製品を構成する部品の1つひとつの部品の精度で保証され、その部品はそれを加工するための金型の精度に保証される。そして金型はそれをつくる現場の技術力(人財)によって成り立っている。プレス加工は、「Made in Japan」を支える重要な要素技術だ。
たとえば我が国のモノづくりをリードする製品に自動車がある。その自動車は多くのプレス加工製品によって成り立っており、日本の自動車は故障が少なく品質は世界のトップクラスである。その自動車の品質は、それを構成する金属プレス部品により支えられている。そしてその金属プレス部品の品質は、その部品を加工するプレス金型に依存し、そのプレス金型の品質は、金型を製造する「人」に支えられていると言えるだろう(図1)。
金属プレス加工会社入門
より高度な技術により競合他社より技術的に優位に立つためには、技術のイノベーションが重要となる。技術のイノベーションを起こすには皆様のような現状にとらわれない新しいものの考え方ができる若い人材が必要だ。現場に新しい空気を吹き込むことで技術のイノベーションが起こりうる。会社としては新たな技術革新の風を吹き込んでくれるような人材を大いに期待していることだろう(写真1)。
現場において新たな発想を得るには「現場を俯瞰(ふかん)してみる」、「原理・原則で考える」ということが重要となる。金属プレス加工会社は、1人の人間で金型をつくり上げ、プレス加工しているわけではない。営業、金型設計、金型製作、プレス加工および品質管理などといったさまざまな分野が協力して製品をつくり上げている。
会社の現場を見ると、いろいろな機械やシステムを用いて仕事をしている様子を見ることができると思うが、今までの生活において馴染みのない機器や道具が多く、説明を聞いてもよくわからないのが現状だろう。またプレス加工会社では、多くの専門用語がある。その用語の意味を知らないと仕事の上でのミュニケーションに支障がでてしまう。
そこで金属プレス加工会社における役割を「Ⅰ営業」、「Ⅱ モノづくり」、「Ⅲ 財務」、「Ⅳ カイゼン」に大きく4つに分類し解説する。そして「Ⅱ モノづくり」部門では、ものづくりの段階を6 つに分けて各段階で使用される機器や道具についてより詳細に解説していく。
まずは金属プレス加工会社の仕事の流れと各解説のポイントについて簡単に説明しよう。
図2は、金型を内製している金属プレス加工会社の業務の流れを示したもので「Ⅰ 営業」から「Ⅱ モノづくり」を表している。
すべての業務はまず取引先より営業に見積もり依頼があったところから始まる。
Ⅰ 営業
図2の仕事の流れにおいて営業の業務を見ると、取引先からの「見積依頼」を受け、会社に持ち帰り、技術的な検討や生産設備の稼働状況などを現場と相談しながら「見積検討」を行う。このとき、製品仕様で自社の技術では挑戦的な仕事となるような場合は特に金型設計、金型製作およびプレス加工の現場と相談し検討を行う場合もある。
営業職は、プレス加工や金型設計に関する技術的な知識と現場の稼働状況や今後の生産計画など会社全体の仕事の流れを把握しておかなければならない。
営業職はどんな製品を取り扱う場合でも、「売る」製品を熟知しなければならない。では金属プレス会社の場合「売る品物」とは何か?売り型の場合は、金型になるが、金属プレス製品を納める場合、「売る品物」は「金属プレス製品」となり、金属プレス製品は金型によって加工される。
金型は加工する金属プレス製品の仕様に合わせて設計・製作する必要があり、金型の設計・製作にはそのプレス加工会社が持つ技術力が注入される。営業職は、自社の技術力を熟知し、その技術力を活かせる製品を見極める能力やその技術を売り込む能力が必要だ。つまり営業職は技術的な知識・経験とコミュニケーション能力(人間力)が必要となる。
(2017/7/4 13:00)