社説/在職老齢年金 高齢者の労働参加を促す制度に

(2024/11/20 05:00)

厚生年金制度をめぐる「壁」は、パートタイマーら短時間労働者に限った話ではない。65歳以上の働く高齢者が一定以上の収入を得ると、支給される年金が減額される「在職老齢年金制度」のあり方が問われている。厚生労働省は同制度の「壁」を見直す検討に入ったという。高齢者の「働き損」を解消し、働く意欲を引き上げることで、深刻な人手不足を緩和したい。

現在は賃金と年金の合計額が基準額である月50万円を上回った場合、上回った額の半分が減額される。「壁」とも呼べる50万円を62万円または71万円に引き上げる案や、制度そのものを廃止する案がある。高齢者への年金給付が増えても年金財政が悪化しないよう、現役世代の高所得者の保険料負担を増やす案などを検討している。給付と負担をうまくバランスさせ、制度の課題を是正する必要がある。

厚労省によると、2022年度末に基準額(当時は47万円)を超えた65歳以上の高齢者は約50万人で、減額された年金額は計4500億円に達する。本来なら支給されるはずの年金で、高齢者の働く意欲をそいでいるとの指摘は、的を射ている。

経団連も、まずは基準額を引き上げた上で、将来的に制度そのものの廃止を検討するよう政府に要望している。年金の満額を受給できる高齢者が増えれば労働参加も促される。政府は年金財源を確保した上で、産業界の人手不足にも目配りした制度改革を実現してもらいたい。

総務省によると、65歳以上は約3600万人と、総人口の約3割を占める。うち就業者は914万人で、65―69歳の52%が就業している。貴重な労働力となる高齢者の労働環境で見直すべき点はないか、年金以外の問題も議論を深めていきたい。

政府は5年に1度の年金制度改革を年内にまとめる。将来の給付水準をいかに維持するかが課題で、年金の担い手となる厚生年金の加入者を拡大することが欠かせない。短時間労働者の「働き控え」を誘発する「年収の壁」も在職老齢年金制度とともに見直し、人手不足の緩和に向けた歩みを進めていきたい。

(2024/11/20 05:00)

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