[ 機械 ]
(2017/7/5 13:30)
はじめに
このたび金属プレス加工会社に就職された皆様「ようこそ金属プレス加工メーカー」へ。近年若者の人口減少やモノづくりへの興味の薄れから、金属プレス加工会社では新たな人材の確保が難しくなっている状況の中で金属プレス加工会社に就職された皆様には、ぜひとも今後の金属プレス加工業界を背負っていくような人材になっていただくことを願いながら、この総論を執筆している。また新入社員の方以外にも、ものづくり部門以外の方や専門的ではないが金属プレス加工について何らかの関わりがある方、とにかく金属プレス加工に興味があり、金属プレス加工についての全体像を広く・浅く理解したいという方にも読んでいただければ幸いである。
金属プレス加工の世界は、決して華やかな世界ではないが、大量生産の製品には、加工速度が速く、高効率な生産ができること、複雑な形状の製品であっても均一な精度の加工ができるという理由から多くの部品がプレス加工で生産されている。しかし、プレス加工を行うためには事前に「金型」をつくる必要があり、「金型」を製作するためには、高度で幅広い工学的な知識と技能が必要になる。またプレス加工では、騒音や振動が伴う加工であり、作業には危険が伴う場合もある。
そんな金属プレス世界だが、日本では今日までプレス加工のメリットを生かしデメリットを克服しながら発展し、日本が世界に誇れる技術の1つとなっているのだ。
本特集では、皆様が一日も早く金属プレス加工についての理解が深まり、その魅力を理解してもらえるよう、一般的な金属プレス加工会社の仕事の流れと、各部署の仕事内容や使用される機器類について、その名称や用途・特徴を、なるべく簡単な言葉で解説する。
【高度ポリテクセンター 中杉晴久】
→【プレス技術】来れ新入社員 ようこそ、金属プレス加工メーカーへ(上)
金属プレス加工会社入門
Ⅱ モノづくり
「モノづくり」の業務は、取引先からの発注を受けて金型の設計から取引先へ金属プレス部品を納品するまでの業務である。図2においては「金型設計」、「金型製作・組立」、「トライ、試し加工」、「プレス加工」、「後処理・組立」、「検査・確認」までの業務である。その中でいち早くプレス加工会社の業務を理解してもらうため上記の業務を次の6つの項目に再分化して解説する。
①図面の見方
②設計(CAD/CAM/CAE)
③金型加工とは
④プレス加工とは
⑤品質管理・検査
⑥2次加工
①図面の見方
金属プレス加工会社では多くの情報が図面により伝達される。顧客からのプレス製品の仕様には必ず製品図がある。営業部門は図面より製品の仕様を読み取り自社で製造することが可能か検討する。製品の仕様(設計仕様)を読み誤ると後の工程に大きな影響を与えてしまう。金属プレス会社で扱われる図面には、会社独特の表現やJISの機械製図と異なる表現方法で描かれている場合もあるので、その特徴をある程度理解しておく必要がある。
②設計(CAD/CAM/CAE)
現在金属プレス金型の設計の現場にはCADシステムが導入されている。CADとは「Computer-aided design」の頭文字からなるもので、日本語訳すれば「コンピュータ支援設計」となる。コンピュータの手をかりて楽に設計ができるのではないかと思われがちだが、金型設計の本質的な業務を行っているのは「設計者」であり、いくらコンピュータの技術が進化しても金型設計の自動化は現在のコンピュータの仕組みが大きく変わらない限りは実現できない。設計という創造的な作業は現在のところ「人」にしかできないのだ。しかしCAD/CAM/CAEシステムは、設計現場では金属プレス加工会社全体の業務の効率化の為に欠かせないツールとなっている。
CAD/CAM/CAEシステムは多くの種類が販売されているが、システムの導入にあたっては自社の業務に合わせて導入する必要があるだろう(写真2)。
③金型加工とは
ここでは、図2の金型の製作を担当する部署で行われる「金型製作・組立」の業務を行うにあたり使用される工作機械などを紹介する。
金型を製作する現場にはさまざまな工作機械が所狭しと並んでいるはずだ。金型を加工する工作機械にはどのようなものがあるのだろうか。高精度な金型をつくり上げるには、その金型を構成する部品も高精度に加工されていなければならない。プレス金型の製作に使用される代表的な工作機械は、旋盤、フライス盤、マシニングセンタ、NCワイヤ放電加工機および各種研削盤などである。これらの工作機械を用いて、いろいろな材質の素材を所定の形状・精度に加工される。工作機械の進歩は金型づくりの進歩と言われるほど深く関わり合いを持っており、最新の金属加工技術を常にチェックする必要がある。ここでは、金型の製作に使用される代表的な工作機械について各工作機械の特長を簡単に解説する(写真3)。
④プレス加工とは
ここでは、図2の「プレス加工」の業務を行うにあたり使用される機械や装置などを紹介する。プレス加工はどのような特徴を持った加工なのか?なぜプレス加工で生産されるのか?プレス加工に必要な設備は?プレス加工を知る上で、プレス加工の中心にあるプレス機械がどのような機械なのか?知っておいても損にはならないはずだ(写真4)。
⑤品質管理・検査
金属プレス加工会社においての品質管理は、金型を構成する部品の精度管理からから始まる。金属プレスで加工される製品は、金型の精度が製品に転写されるので、金型部品の精度が重要となる。また金属プレス加工は、プレス加工は生産量が多い製品に用いられるため、1つひとつの部品の品質をどのように保証しているのか?どういった方法で検査するのか?プレス加工された製品の管理も重要である。ここでは、金型の製作やプレス製品の検査で使用される測定機器や大量生産で用いられる精度管理の手法ついて解説する。
⑥ 2次加工
金属プレス加工では、材料の特徴をよく理解し、その特徴をうまく利用して行う。金型の製作では、金型の機能に合わせて適切な材料に加工が施され、必要に応じて焼きなましなどの熱処理が施される。また生産された金属プレス製品が最終製品となるまでに、塗装やめっき処理などが施され、組立には溶接なども行われる。ここでは、金属プレス加工で行われる2次加工について解説しよう。
Ⅲ 財務(お金の流れ)
企業は顧客に有益な商品を提供しその対価として利益を得ている。利益を出すことは企業の活動として当たり前のことだが、より多くの利益を上げるためには、より付加価値の高い製品を、コストを抑えて製作する必要がありそれには社員1人ひとりの行動が重要だ。図3は業務の流れとコスト(経費)の関係を表したものだ。横軸に時間軸、縦軸が品質と価値・コストである。
人が会社で働くと当然人件費がかかる。また実際に「もの」をつくると設計段階に比べ材料代や加工賃など発生するコストが大きくなります。製作段階以降で設計変更などの手直しが発生するとコスト的にも影響が大きくなるため、いかに設計段階で品質を上げるかが重要となる。
世の中の製品に対するニーズの多様化、市場のグローバル化が進展するなか、金属プレス加工部品においては品質・機能がより高度化・複雑化し変革を続けている。また納期もスピードが求められ同時にコスト削減を達成しなければならない。そのためには設計以降の段階で出戻りをなるべく少なくすることが重要だ。設計段階で品質を高める為には、下流を見渡すような設計が必要となる。つまり設計の段階でものづくりの全体を見渡すような確認作業が必要となります。そのためには単なる情報のやり取りだけではなく、人と人とのコミュニケーションと協同作業(パートナーシップ)が重要となる。
財務の視点で現場を見ると、さらなる利益の獲得につながるヒントが見えるかもしれない。
Ⅳ カイゼン(5S)
生産性向上のための取組みの基本となる「5S」は、製造現場のみならず、全ての職場において取り組むべきものだ。「5S」とは、「整理」「整頓」「清潔」「清掃」「躾」の5つのキーワードの頭文字である。5Sの取組みを実践するにあたり、大切なことは「心」と「意識」である。
「整理・整頓」では「思いやりの心」と「能率意識」が重要である。共有で使うものは機能的な置き場所を決めて、使ったら所定の置き場所に戻すことで、後で使う人の探す無駄が省けるのである。
「清潔・清掃」では、1つの作業を終えて清掃する「けじめの心」と「ものを大切にする心」、それが事故を抑えるための「安全意識」を高めることにつながる。
「躾」とは、以上の4点を実行し、それを現場全体に定着化することである。それにより「協調心」や「道徳心」が育まれ「規律意識」が芽生える。そうして当たり前に4Sが行えるようになるのである。
また5Sを実践することで、無駄の排除やさまざまな管理能力および職場環境に対する社員の意識を向上させることができる。ひいては、過剰在庫を減らし、業務効率や職場の快適性を向上させることにつながる。
本特集を読み終えた後、ぜひ会社の中を見ていただきたい。会社の中で働いている人、並んでいる各種工作機械やプレス機械および金型などの見え方が少しでも変わることを期待している。
(2017/7/5 13:30)