[ 機械 ]
(2017/7/10 13:30)
皆さんは、職場に新たに導入されたサーボプレスを見て、社長や職場の先輩たちが、「これは、凄い。自由に動かし、止めることができる。これがあれば、新たな仕事を受けられる」と異口同音に話す光景を見たことはないだろうか(図1)。
そのとき、疑問として、「外観から見るだけでは、どれがサーボプレスかどうか区別もできない。さらに、自由に動かし、止めることが、なぜ良いのか?また、自由に動かし止めることが、そんなに凄いのか?」と疑問を抱いたことはないだろうか。
「新しい技術」の導入が行われても、実際のプレス加工では、日々の作業で行われているプレス加工品になる被加工材と金型の間に生じている現象が劇的に変化するものではない。このような状況下でも、新しい加工技術が生み出す「わずかな優位性」を見て活用するためには、現在、行われているプレス加工を支える多くの技術を十分に理解することが大切である。その結果として、いわゆる「ノウハウ(実は、多くは、原理・原則に基づいている)」が生まれるのである。
【塑性加工教育訓練研究所 代表 小渡 邦昭 (こわたり くにあき)】
→【プレス技術】イメージでつかむ「抜き」「曲げ」「絞り」の原理・原則/プレス機械が作用する荷重の変化を「腕立て伏せやバケツ持ち」から考える(上)
「クランク」とは
次にクランク機構での「圧力能力」をイメージから、もう少し理論的に「なぜ、荷重が変化するか」考えてみよう。そのときに、「トルク」が大切なキーワードとなる。
図7に示すように、半径R(m)の円板がその接線方向にF(N)の力を受けて回転している場合を考える。円板を回転させようとする作用の大きさを「トルク」と言い、接線力と回転半径の積で表される。このトルクは、プレス加工が行われるときは、一定であることが必要とされることは当然である。万が一、変化するようであれば、均一な生産活動ができないことになる。なぜならば、クランクと連接棒がピンで固定され、連接棒にプレス機械のスライドがつけられているので、「トルク」発生がプレス機械のスライドに発生する力に影響するからである。
では、実際プレス機械が発生する力を考えてみる。図8でわかるように、単純化したクランク機構に置き換えるならば、連接棒に働く力が、スライドに発生する力とほぼ同じと考えるならば、複雑なプレス機械もこの連載に何度も述べてきた「単純なテコの原理」に置き換えることができる。つまり、「荷物を持つ」イメージでは、「腕の長さ」に注目するならば、「腕の長さが変化したならばどうなるか」を考えるならば(図9)
○腕が長い状態であるスライドが90度の位置では、「トルク一定」と考えるならば、発生する力が小さくなる
○腕は短くなる(スライド位置が150度)場合は、発生する力が大きくなる
難しい式ではないが、少し我慢して計算式を確認してみよう(図10)。
計算式の結果として
トルク=スライドに発生するP×単純化したトルクが発生する距離e
という関係をグラフ化すると図11のようになる。つまり、スライドの位置が変化するならば、プレス機械が発生する圧力も変化するのである。このことが「クランクプレス機械」は、油圧プレスと異なり、ストロークのどこの位置でも荷重が同じでないことの理由である。クランク機構のプレス機械では、スライドに位置に耐えられる度合いが異なる。つまり、スライドの位置によりプレス加工で利用する荷重に耐えることができる度合いが異なる。
このイメージを、ストローク長さが異なるプレス機械で比較してみる。最初、簡単に理解できるようにストローク長さが長くなるならば、発生する圧力が小さくなる。つまり、ストロークと荷重の関係を示す「ストローク-荷重線図」と呼ばれる線図で異なるストロークのプレス機械で比較するならば図12のようになり、単純に発生する力だけでプレス機械を評価できないことがわかる。
では、通常のプレス加工が行われる下死点では、どのくらいの圧力が発生するのであろうか。実は、この答は、「無限大」である。図13からイメージすると理解ができるであろう。まっすぐな棒では、この上下に荷重をかけるならば、この棒は破損するまで耐えられる。しかし、ストローク途中では、腕の曲がりが上下の荷重により、容易に変化することをイメージするならば理解できるであろう。
ここで、「でも、プレス機械には○○t(○○○kN)の荷重が発生する」と思われる方がいるのではないだろうか。これが重要なポイントである。実は、「荷重が発生」ではなく「荷重に耐えられる」と考えことが適切である。つまり、無限大の荷重が出せると言うことは、「無限大の力を実現するためには、その無限大の力に耐えられるプレス機械を必要とする」。それに耐えられるプレス機械の構造を必要とされる。しかしながら「無限大の力が発生するならば、それに耐えられるプレス機械」という矛盾にたどりつく。だから、プレス機械のフレームを含む各部品が耐えられる荷重を決める必要から、プレス機械の目立つところに表記されている「○○t or ○○kN」で「使用限界荷重」が決められている。これを、「圧力能力(公称能力)」と呼ばれる。
繰り返しになるが、この「圧力能力(公称能力)」が決められていても、その荷重しか出せないのではない。理論上の無限大には変化ないので、プレス機械は、プレス機械のフレームの変形などからプレス加工に使われる荷重を検出して、「公称能力」を超えるような荷重では、プレス機械を停止させる「オーバーロードプロテクタ」という安全装置が設備されている。このように決められるのがプレス機械の3要素の1つである「圧力能力(公称能力)」である。
トルク能力
プレス機械の3要素の1つである「トルク能力」を、前述のストローク荷重線図を利用して考えてみよう。図14のように、ストローク位置で荷重が変化する。この関係を、ストローク荷重線図で表し、さらに、この線図に公称能力の線を追加するならば、この2つの線が交わる点の下死点からの距離を「トルク能力」と言われる。これは、トルク=発生する荷重×回転中心までの距離の式から発生する荷重がトルクに非常関係しているために「トルク能力」と言われている。
実際では、かなり基本的な原理から派生した言葉なので、現在では、よりわかりやすくするために「圧力発生位置」とも言われている。さらに、ストローク-荷重線図からもイメージできるように、ストローク長さが変化することで、「圧力発生位置」が変化することを理解するのは容易である。
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今回のプレス機械の理解によりプレス機械に貼られている銘板の項目を見ただけで、おおよそのプレス機械のストローク-荷重線図が思い浮かべることが可能になるのではないだろうか。次回は、プレス機械の3要素の「仕事能力」についてイメージしてみる。
(2017/7/10 13:30)