[ オピニオン ]
(2017/7/6 05:00)
中国の鉄鋼業界で政府主導の構造改革が着々と進んでいる。過剰な生産能力の削減や業界再編、薄利多売型から高付加価値型産業への転換を促して国際競争力を高め、2025年には「鉄鋼大国」から「鉄鋼強国」への地位向上を果たすとしている。日本の鉄鋼メーカー各社には中国勢の追随を振り切るための技術向上、製品力の強化が求められる。
中国は急速な経済成長を遂げる中で、生産設備や不動産在庫などの過剰なストックを多く抱え込んだ。鉄鋼業界も例外ではない。このため政府は16年から5年以内に、1億4000万トンの生産能力を削減させる方針を打ち出した。さらには「地条鋼」と呼ばれる粗悪な製品を無許可で製造する年産1億トン規模の違法な設備を、6月末までに全廃させる取り組みを進めてきた。
業界では08年のリーマン・ショック後に政府が取り組んだ4兆元の景気刺激策の効果が薄れ、鉄鋼需要が落ち込む中でも過剰生産が続いたため市況が悪化し、メーカー各社の収益も14年を境に急降下した。だが、生産量で上位に名を連ねる国有企業各社を管轄する地方政府が、失業者の増加や税収の落ち込みを警戒し、地元メーカーを資金面で支えてきたため、不採算企業の淘汰や設備集約は遅々として進まなかった。
そこで能力削減の実行に際しては、各省に具体的なノルマを課すとともに、再就職支援で1000億元の基金を創設するなどの策を講じた。これらが奏功し、予定を上回るペースで進んでいる。
中国政府が次に狙うのは、業界再編と事業の高付加価値化だ。生産能力の削減を通じて不採算企業の整理を進めた後、再編によって業界を先導する先駆的企業をつくり出す。そして高品位な製品を主体とする高付加価値産業への転換を促し、国際競争力を高めるという。再編では宝鋼集団と武漢鋼鉄集団の大手国有2社が16年10月に経営統合し、粗鋼生産量で世界2位の宝武鋼鉄集団が誕生。統合のモデルケースとなる。
構造改革が中国の鉄鋼業界に、大きな意識改革をもたらす可能性もある。能力削減で鉄鋼製品の品薄感が強まり、市況が上向いた結果、各社のマージンが改善したためだ。大和総研主席研究員の齋藤尚登氏は「薄利多売に偏っていた各社が、需給バランスの重要性を知り、需要見合いの生産にかじを切るのではないか」と見通す。
宝武鋼鉄集団のように巨大な販売力を持つ企業が、それに応じた需給調整機能を発揮すれば、鋼材市況が安定して業界全体の収益環境が好転する可能性がある。一方で市場関係者の間には「日本の得意な高品位の製品分野で将来、強敵になりかねない」との指摘もあり、国内各社には差別化に向けた一層の品質向上、高付加価値化が求められる。
(宇田川智大)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2017/7/6 05:00)