[ 機械 ]
(2017/7/10 12:00)
製造業のIoT(モノのインターネット)への取り組みが進む中、プレス加工においてもサーボプレスを利用したデジタル生産技術や金型センシング技術などが注目されている。特にサーボプレスの利用によって、成形性向上や省エネ・環境負荷低減などの効果を一層高めるためには、ITとの融合によるプロセスの見える化、知能化による利用技術高度化がますます重要となっている。ここではIT活用によるサーボプレス利用技術の高度化の取り組みについて紹介する。
【首都大学東京システムデザイン研究科 教授 楊 明】
期待されるサーボプレス利用技術の高度化
サーボプレスはサーボモーターのデジタル制御により、スライドのモーション(位置や速度)を自在に制御することが可能である。スライドを上下振動しながら下降していくパルスモーションやスライドを途中で短時間止めるステップモーションなどを利用することによって、成形性向上、金型長寿命化、加工力や摩擦力の低減、さらに生産効率向上や省エネなどの効果が確認できている。
例えばパルスモーションを用いた絞り成形では、パルス振動による金型と素材界面の再潤滑効果による摩擦低減効果やステップモーションによる素材変形の応力緩和効果などによって、板材成形時の成形限界向上が実証されている。鍛造においてはパンチをパルス振動させることによる再潤滑効果で、ボンデ処理なしに普通の潤滑油での後方押し出し鍛造を可能にしている。
またダイクッションのサーボ制御も併用することで、スライドとダイクッションのモーションの同期制御により、パネルの絞り成形において大幅な成形限界向上効果が上がっている。
しかし現時点では、サーボプレス機械(ハードウエア)の開発が進んでいるが、その利用技術を補助するソフトウエアや周辺技術が追い付いていないのが現状である。ユーザーから要求される製品形状や精度に対して、どのモーションを採用すればよいか、またモーションの細かい仕様をどのように決めるかを悩んでしまう場合が多い。目的に応じて、最適なモーションを設計してくれるソフトウエアの開発が期待される。
また加工プロセスモニタリング技術も重要である。各種モーションに伴う金型内での素材変形形態が見えるようになれば、各種効果が目に見えて理解できるようになり、最適なモーションもより簡単に設計できる。したがって金型内での素材変形モニタリングを含めた加工プロセスの見える化技術の開発、CAE(コンピューター利用解析)を駆使した複雑な製品のプロセス設計や生産管理などITの活用がサーボプレス利用技術の高度化のカギとなる。
IT活用による高度化の取り組み
IT活用によるサーボプレス利用技術の高度化の取り組み事例をいくつか紹介しよう。
情報の統一管理によるプロセスの見える化
2段サイクロイドギアの精密冷間鍛造において、上工程と下工程を含む全自動化生産ラインが開発された。図1にその全自動化生産ラインの概要を示す。すべての工程の状態をオンラインで管理し、上工程の各種情報を鍛造プロセス条件に適用する。さらに鍛造プロセスの情報を下流の仕上げ工程にも適用される。
冷間鍛造を含む各工程の情報を統一的に管理し、個々の部品精度の把握によってプロセスの見える化が実現されている。工程管理、品質管理、特にトレーサビリティーの把握に役立つ。
またサーボプレス機械に「成形状態モニタリングシステム」と「型タッチ位置検出機能」と「ブレークスルー荷重表示機能」の組み合わせにより、最適モーションを設定しやすくした。成形トライをすることで、型と材料がタッチする位置を自動的に検出し、タッチ位置をボタン一つでモーションに反映できる。リニアスケールとロードモニターで計測した実データを高精度に操作画面にグラフ表示し、荷重とスライド位置などの成形状態を正確に見ることを可能にした。
シミュレーションによる各種モーション効果予測
プロセス中にスライドの速度可変による材料の変形抵抗や摩擦特性の変化を有限要素法解析に取り入れ、素材変形に及ぼす影響やパルスモーションによる摩擦低減効果をシミュレーション可能にした。
また図2に示すように、精密鍛造においてパンチ速度の変化による素材変形熱による温度分布および製品精度への影響がシミュレーションされた。一定の速度(高速)ではパンチ肩付近の素材温度が高くなり、温度分布の不均一が最終製品形状精度に影響する。
一方、成形途中で減速することでパンチ肩付近の素材温度上昇を抑えることができる。このようにパンチ速度の変化を最適に設計すれば、設計製品形状精度向上につながる。
海外ではステップモーションによる素材の応力緩和現象を室温でのクリープ現象と仮定し、室温でのクリープを考慮した材料変形モデルを適用した成形中のステップモーションによる応力緩和効果を考慮したプロセスシミュレーションが行われ、実験結果とよい一致を示した。
また熱間成形における材料変形の構成モデルを提案され、シミュレーションに適用された。これらのシミュレーション技術が見えない金型内部での素材変形形態の見える化に大変に役立ち、さらにプロセス設計の有力なツールになるであろう。
IoTに向けたネットワーク情報管理
プレス加工機械にIT支援技術とネットワーク技術を適用して、個々の製品に対し複雑なサーボモーションのプログラミングした加工条件、およびその製品の生産時情報を記録した加工データを自動的に管理することにより、生産システム管理のデジタル化が実現された。プレス工場全体の見える化につながっている。
これまでに蓄積した数々の加工ノウハウをデータベース化し、サーボ初心者でも工程種別ごとに最適なモーション選択を行えるようになった。さらに機械メーカーがクラウド管理会社と組んで、図3に示すIoTで板金加工支援システムが開発された。加工データ収集、金型管理、モーション作成支援がオンラインでできるようになり、クラウドによるデータの一元管理、ユーザーの保守や加工へのサポートが可能となっている。
まとめ
サーボプレスは塑性加工のデジタル化を可能にした重要な技術であり、その利用技術の高度化が進み、高付加価値生産技術として利用されつつある。今後、IT活用によって、より高精度、高効率、オンデマンドなどのニーズに対応した高度な生産技術に発展することが期待される。
(2017年6月14日 日刊工業新聞 掲載「サーボ駆動式プレス機」特集より)
(2017/7/10 12:00)