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[ 科学技術・大学 ]
(2017/8/17 05:00)
遺跡や遺物の発掘から過去の先人の生活や変化などを研究するのが考古学。これまで発掘は考古学者の経験と勘に頼ってきた。その経験と勘を、宇宙にある衛星の画像データで補う学問分野が注目されている。文献研究や実地調査に加え、衛星データを利用した地球観測技術「衛星リモートセンシング技術」(衛星リモセン)を使う「宇宙考古学」の発展により、歴史に埋もれた謎の解明が進むかもしれない。(冨井哲雄)
■東海大など、文理融合加速
衛星リモセンは環境や災害、資源探査などさまざまな分野で利用されている。東海大学情報技術センターの惠多谷雅弘事務長らは、衛星リモセンによる科学的なデータを駆使し、遺跡の候補地の絞り込みや遺跡の謎を解く研究を行う。米航空宇宙局(NASA)の地球観測衛星「ランドサット」や宇宙航空研究開発機構(JAXA)の陸域観測技術衛星「だいち」などが撮影した画像データを使う。
光学画像なら地上を直接観察できるが、砂漠の中に埋まった遺跡ではそうはいかない。そのため砂漠の下を見られる砂を透過するレーダーが有効になる。レーダーなら夜中や曇りなどの悪天候でも有効だ。光学センサーとレーダーの長所をうまく組み合わせ、状況に応じて使い分けることが分析には必要だ。
【貴族の墓発見】
遺跡と言えばエジプトのピラミッドが有名だ。実は世の中には未発見のピラミッドが多数存在している可能性がある。ピラミッドと言えば、巨大な四角すいの形を思い浮かべるが、「実際には上部がなくなり、砂の中に埋もれている可能性がある」(惠多谷事務長)。
1994年、東海大と早稲田大学エジプト学研究所は衛星データを利用し、エジプトの未知のピラミッドを探すプロジェクトを開始。既知の遺跡の分布の特徴などを衛星画像で確認し、未発見の遺跡の候補地を絞り込んだ。
衛星の画像データで遺跡の目星をつけてからが本番。東海大の惠多谷事務長は「本当に遺跡があるかないかは現場に行き確かめるしかない」と現地での検証の重要性を強調する。
現地調査と発掘の結果、カイロの南40キロメートルにあるダハシュールで紀元前1400年ごろのエジプト王朝の「トゥームチャペル」と呼ばれる貴族の墓の遺跡を発見した。
衛星データを使った遺跡探査でエジプト王朝時代の大型遺跡の発掘は初めてだ。研究グループは同遺跡を含め4カ所の遺跡の発見に成功した。
■変化を可視化、新たな発見
【始皇帝の墓室】
約2200年前に中国を統一した秦の始皇帝。始皇帝の陵墓(墳墓)は、古代中国の都である長安(現西安市)付近にある驪山という山の斜面に存在する。陵墓全体は、驪山とその北を流れる渭水という川に挟まれている。
東海大と学習院大学文学部の鶴間和幸教授らは、衛星画像と地形データを組み合わせた映像解析技術により、陵墓が東西南北の方角にあわせて緻密に作り上げられた建造物である可能性を明らかにした。さらに衛星画像から陵墓が平らな場所ではなく、傾斜が2度もある急な斜面に作られていることも分かった。
また中国の研究者との共同研究により、始皇帝の遺体を安置した墓室は地下30メートルに位置しており、これらはその後の時代の漢の皇帝の遺体の墓室などに比べ深く掘られている。
鶴間教授は、「始皇帝は自分の肉体を永遠に残すことを考えていた。地下30メートルの空間は気温が数度Cと低く、密閉すれば天然の冷蔵庫となる」と遺体の保存に適した環境であったと指摘する。
一方、地下30メートルでは地下水への対策が必須だ。そのため斜面がある場所に陵墓を構築したと考えられる。水はけを良くし、さらに堤防を設けることで、地上の河川と地下水を取り除き、遺体の保存環境をより良く保っていたようだ。
通常、衛星画像を見ただけではこのようなことを着想することは難しい。鶴間教授は「我々が気付けない変化を目に見える形で可視化できるのは大きい」と衛星画像データの分析による研究の意義を強調する
【帝陵に共通点】
(2017/8/17 05:00)