[ ICT ]
(2017/8/22 05:00)
ソフトバンクグループが米携帯電話業界の再編に向けて動きを活発化している。子会社の米スプリントを軸に、複数の相手を想定した事業統合を検討している。その候補には同業3位のTモバイルUSや米ケーブルテレビ(CATV)業界2位チャーター・コミュニケーションズが挙がる。一方でスプリントは業績が改善しているものの、米携帯業界で4位と決して強い立場にはない。このため統合交渉の難航を予想する専門家もいる。(葭本隆太)
「交渉は一歩一歩進んでいる。近い将来に何らかの意思決定ができる」。ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は2017年4―6月期の決算会見で、こう力を込めた。スプリントの業績改善が進んでいることに触れ「単独成長も十分可能」としつつ「業績が良いからこそ、事業統合を積極的に考える」と再編に強い意欲を示した。
統合相手の候補にはTモバイルやチャーターが挙がる。特に孫会長兼社長は、5月にTモバイルについて「統合相手の最有力候補」と公言した。ソフトバンクは13年のスプリント買収時、当時はスプリントに次ぐ業界4位だったTモバイルも買収し、ベライゾンとAT&Tの2強に対抗する構えだった。ただ、当時のオバマ政権下の規制当局が反対し、頓挫した経緯がある。
13年以降、Tモバイルは急成長を遂げており、契約者数ではスプリントを抜いた。Tモバイルを傘下に収める独ドイツテレコムの事業の中でも成長株になっている。このためソフトバンクが統合交渉を主導するのは難しい状況とみられる。
そこで次に浮上したのがチャーターだ。統合が実現すれば、スプリントはチャーターが持つ顧客基盤を生かして契約者の拡大を図れる。また、チャーターの映像コンテンツを活用した携帯向け動画配信サービスの提供なども考えられる。一方、CATV業界では主力のテレビ事業や固定ブロードバンド事業が、中長期的に大きな成長が見込みにくい。チャーターにとっても次の一手として携帯事業者との連携が不可欠とされる。
ただ、こちらの交渉も一筋縄ではいかなそうだ。情報通信総合研究所(ICR、東京都中央区)の清水憲人主任研究員は「スプリントはコスト削減で、なんとか利益を捻出している状況。チャーターも負債比率が高い。財務基盤が強くない企業同士の統合により(携帯業界における)競争力が一気に上向くかは疑問」と指摘する。特にチャーターにとっては「携帯事業者の中で、あえて業界4位の企業と連携するメリットは考えどころだろう」(清水主任研究員)と分析する。
いずれの交渉においてもスプリントは決して優位な立場とは言えない。その中で交渉先の合意を得るには、魅力的な成長戦略の提示が欠かせない。孫会長兼社長の手腕が注目される。
(2017/8/22 05:00)