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[ 科学技術・大学 ]
(2017/9/8 05:00)
宇宙空間には銀河や超巨大天体であるブラックホールなど、未知の世界が広がっている。天体観測には従来、大型衛星が活躍していたが、今後は小回りがきき低コストの超小型衛星の出番が増えるかもしれない。
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天体観測では天体から届く光を手がかりに宇宙の謎に迫っている。宇宙の物質の8割はX線でしか観測できないと考えられており、X線利用の天体観測は宇宙を知るための重要な道具となる。だがX線は地球の大気に吸収される。このため、大気の外側に浮かぶ衛星から宇宙を観察すれば宇宙に関する多くの情報を得られる。
こうした期待を受けて2016年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)がX線天文衛星「ひとみ」を打ち上げた。しかし、事故によって運用が中止されてしまう。次の大型X線天文衛星計画は28年に打ち上げ予定の欧州の「アテナ」までなく、研究の空白が懸念されている。JAXAはひとみ代替機の20年打ち上げを目指し、開発を急いでいる。
こうした動きとは別に、超小型衛星を利用した天体観測手法の開発が進んでいる。
首都大学東京の佐原宏典教授らは、50キログラムの超小型衛星「オービス」で、2個のブラックホールが対になった「バイナリーブラックホール」(BBH)の探査を計画中だ。BBHからのX線を検出し、質量や軌道半径を推定する。研究が進めば、銀河の成長を解明する手がかりになるかもしれない。
BBHに関しては存在自体があるかどうか分かっていない。そのような不確かなミッションを大型衛星に担わせることはコスト上難しい。
佐原教授は「低コストの超小型衛星なら、BBHだけを観測するミッションを行える」とメリットを強調する。
一方、BBHだけでなく天体からの信号を検出しようとするニーズは多い。その中でも大きなトピックは、時間と空間の歪みが波のように伝わる「重力波」という現象だ。
重力波を出す天体を解明するため、米重力波望遠鏡「ライゴ」や東京大学の大型低温重力波望遠鏡「かぐら」の稼働が期待されている。
さらに東京工業大学の松永三郎教授らの超小型衛星「ひばり」や、金沢大学の八木谷聡教授らの「カナザワサット」が重力波の発生源からの電磁波の観測を目指している。
ひばりは近紫外線、カナザワサットとオービスはX線を観測するという違いがあるが、天体の爆発や衝突などで突発的に現れた現象を検知し観測するという点で共通する。金沢大のプロジェクトでは衛星での天体発見後、地上の望遠鏡と連動し、精度の高い観測を目指す。
八木谷教授は「重力波とX線の検出で、ブラックホールの誕生の瞬間の現象に迫りたい」と期待する。
突発的に現れる天体からの電磁波の検出には、天体の精密な位置を設定し、姿勢を速やかに変えなければならない。こうした小回りのきいた動きに対応するのに超小型衛星はうってつけだ。
東工大の研究チームでは、4枚の各太陽電池パドルにモーターを取り付け向きを変更することで、安定的に高速で姿勢変更を可能にした。
こうした技術は「地球を観測するリモートセンシング(リモセン)用の衛星の姿勢制御技術に使えるはず」(松永教授)と、今後の宇宙産業の発展に欠かせないリモセン技術の向上も期待できる。(冨井哲雄)
(金曜日に掲載)
(2017/9/8 05:00)