[ オピニオン ]
(2017/11/9 05:00)
産学共同研究の本格化・大型化を政府や経済界が掲げ、各大学は優れた産学連携の構想を打ち出すチャンスを迎えている。筑波大学は2015年度を中心に取り組んだ改革が効を奏し、大型化に加え、研究開発法人との連携、分野融合などを押し進めた。各大学の特色を生かした戦略を考えるうえで、他大学のヒントになりそうだ。
筑波大が企業と手がけた産学共同研究の大型化は、14年度と15年度の実績数値の比較で明らかだ。件数は約290件から約320件という伸びだが、総額が約4億8000万円から約10億4000万円とほぼ倍増。平均単価は326万円に倍増した。
同大の金保(かなほ)安則理事・副学長は「この指標で日本の大学ランキング10位に入ったが、数年内に5位に持って行きたい」と意気込む。外部資金のみで自立運営する「開発研究センター」も開設の皮切りは15年度だった。現在はトヨタ自動車が単独支援する「未来社会工学開発研究センター」など5件に拡大している。
変化を導いた主体は14年度に整備された国際産学連携本部で、ノウハウ豊富な企業出身人材の採用を強化したことが一因だ。大手電機メーカー出身の1人は、自社における産学共同研究の大型化を実体験しており、変化をリードする担い手となった。
共同研究の設計はそれまでと異なり、ぐっとニーズ寄りに変えた。産業課題把握から始まる技術提案は「市場(マーケット)からビジネス、そして大学(アカデミック)」という意識から、「M2B2A」(エムツービーツエー)型産学連携と名付けている。
研究機関が多いという筑波地域の特徴からも、具体的な成果を導いた。同大は産業技術総合研究所と資金を出し合い、両機関研究者による共同研究プロジェクトを1件100万円で支援する「合わせ技ファンド」を14年度に始めた。
このうち優れた案件を科学技術振興機構(JST)の「新技術説明会」に発表したところ、7件中5件で企業が新たに加わった共同研究に発展したという。そこでこの仕組みを、農業・食品産業技術総合研究機構など他の研究機関との仕組みに広げている。
茨城県つくば市への移転時にユニークな大学に生まれ変わった同大は、他の組織や専門とつながる学際・融合性も独特の文化の一つだ。例えば大学院の「人間総合科学研究科」には医学、芸術、体育、教育などの教員が約660人所属するという。「合わせ技ファンド」の採択事例にも融合タイプは多く見られる。縦割りの弊害に悩む大学が今なお多い中、企業が期待する新産業創出に向けた融合研究で、この文化は強みとなる。
同大は教員数約1900人、学生数1万7000人で、北海道大学や名古屋大学などと同規模だ。研究型大学としては中堅に当たる。そのため中小規模の大学が、特定分野での研究・教育、そしてそれに基づく産学連携を模索するうえでも、個性ある同大の取り組みはヒントになる。産業界が連携に前向きな今こそ、多様な提案が大学から出てくることを期待したい。
(山本佳世子)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2017/11/9 05:00)