[ オピニオン ]

【電子版】論説室から/動き出すか「インド太平洋戦略」―日米印豪が合意

(2017/11/16 05:00)

米国のトランプ大統領は初のアジア歴訪で、「米国第一」を掲げて中国、日本、韓国に貿易不均衡是正を求めた。さらに、日本には武器購入の増加を要請し、中国とは2500億ドル(約28兆円)にものぼる商談が成立したなどとした。

その間に開かれた、ベトナム・ダナンでのアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議、フィリピン・マニラでの東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳との会議でも「公正で互恵の貿易関係」を強調し、APEC首脳会議では「米国は世界貿易機関(WTO)に公正に扱われていない」とWTO批判を繰り返した。

トランプ大統領の貿易面でのこうした姿勢は大統領就任来といえるが、従来の米国大統領のようなグローバルな枠組みの中での米国の戦略・具体策提示とは異なる。国内向けのショービジネス的な色彩が強い。

安倍晋三首相は一連の会議で、核開発を強行している北朝鮮に対する国連安全保障理事会の決議に基づいた一層の圧力強化、多角的な自由貿易の推進などとともに、「自由で開かれたインド太平洋戦略」の推進を提唱した。

この戦略は当然、中国が進める「一帯一路」を意識している。この戦略については、6日の東京での日米首脳会談でも話し合われ、(ア)法の支配、航行の自由等の基本的価値の普及・定着、(イ)連結性の向上等による経済的繁栄の追求、(ウ)海上法執行能力構築支援等の平和と安定のための取り組み―に向け、具体的な協力を検討するよう閣僚・機関にそれぞれ指示することで合意している。

安倍首相は、インドのモディ首相とは、9月の訪印時に、「自由で開かれたインド太平洋戦略」とインドの東進政策といえる「アクト・イースト政策」間での開発の相乗効果発揮で合意している。マニラでは、日米印豪の首脳が安全保障面を含めたインド太平洋戦略に関し、協力することで合意した。豪州は、同国の北に位置するアジアを向いてきたことで成長しており、アジアの動向への関心は強い。それに対し、トランプ大統領は、APECでの演説でも「アジア太平洋」に少々言及した程度だ。

中国の「一帯一路」は、南シナ海での人工島建設・軍事基地化といった動きと連動している。中国はマラッカ海峡、ベンガル湾、インド洋でも「真珠の首飾り」と呼称される戦略を展開。マレーシア、ミャンマー、バングラデシュ、スリランカ、パキスタンで港湾建設支援、それに伴う経済開発支援などを行い、中国海軍の寄港地を増やしている。

トランプ大統領は、今回のアジア訪問で、中国を名指しした非難は手控えた。しかし、中国の「汎中華主義」ともいえる膨張策は、すでにマレーシア、スリランカなどで軋轢(あつれき)を生んでいる。米国第一主義をとるとはいえ、トランプ政権が中国のそうした膨張策を座視し続けるとは思われない。

トランプ大統領は、モディ首相の招きを受け、2018年初めに訪印することになっている。インドは、北部のジャンム・カシミール州で、中国の友好国であるパキスタンとの国境紛争が続き、今夏にはシッキム州近くのブータン内で印中軍が対峙(たいじ)した。トランプ大統領が訪印の際、対印武器輸出規制の大幅緩和、安全保障、「インド太平洋戦略」の具体化といった面で、モディ首相とどのような合意に至るか注目される。

(中村悦二)

(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)

(2017/11/16 05:00)

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