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(2018/1/5 05:00)
回避できない戦略的テーマ、今こそ長期戦略(5-10年)検討に着手すべき
筆者は、現在のインダストリー4.0の潮流が、3年以内に日本企業に致命的な影響を与える確率は高くないと考えている。しかしながら今後5〜10年というスパンを視野にいれた長期戦略には必須のテーマと考えている。“ブランディングの一環として扱い、表面的な対応に終始すること”は危険だろう。
理由は、数年後の競争環境の見通しにある。すなわち、①製品市場では先進国の製造ノウハウを装備した新興国製造業との競争となる。②資本市場(M&A他)では、新興国の成長を内部化し株式時価総額を拡大した先進国製造業との競争となる。いずれの領域でも競争環境の激化が予想される。
③一方、現在の日本の製造業に典型的にみられる弱点は、技術継承、グローバル展開、M&A時のPMIと指摘される。大きな要因の一つに、オペレーションノウハウの多くを現場の暗黙知に依存し、形式知化・組織知化のためのERP(統合業務パッケージ)、SCM(サプライチェーン・マネジメント)、PLM(製品ライフサイクル管理)やIoT(モノのインターネット)関連のソフトウェアへの投資が遅れている企業が多いことが挙げられる。
このため、通常の中期計画とは別に、破壊的イノベーションのシナリオライティングを踏まえ、5年以上先までを睨んだ長期戦略の立案と当該検討チームの組成が今こそ必要である。さらに、この長期戦略計画立案業務を今後継続的に行う組織活動に位置づけるべきと考える。
検討すべきテーマは、製品やサービスのポートフォリオ戦略に加え「バリューチェーンのポートフォリオ戦略」である。
例えば、①自社のコア機能を明確に定義し、②どのモジュール、レイヤーで価値創造を行っていくのか、③ITによるコア機能のブラックボックス化の方法、④新興国のリソースを活用してレバレッジを効かせられるビジネスモデルの追及、⑤自社のコア機能モジュールのITプラットフォームを活用した事業拡大可能性の検討、⑥先進的なプラットフォームを最大限に活用した新たに挑戦してくるライバル企業への対応戦略など、多数の想定シナリオへの適応策の検討がまず重要である。
検討チームのキャスティング重要に
長期戦略に携わる検討チームのキャスティングには特別な配慮が必要と考える。これまでは、そもそも5年以上のスパンで戦略を検討している機能横断型のスタッフを抱えている企業は少ないようである。従来のIT部門はこうした自由度の高いテーマは必ずしも得意ではないことも予想される。さらに、長期戦略の検討は短期で終えることができるとは限らず、今後も継続的な活動となることが予想される。
このように考えると、検討チームメンバーのキャスティングには当該企業の次々世代のエース級を充てることが効果的と考えられる。また、製品開発部門、生産技術部門、製造部門、SCM部門、財務部門、IT部門、マーケティング部門、セールス部門などの機能組織横断型の混成チームで、かつアジアを含む世界中の拠点から英知を結集することが効果的であろう。
インダストリー4.0で問われるグローバルな本社機構
インダストリー4.0では、製造業のグローバルオペレーションの再構築力、エンジニアリング力が問われている。実は、日本で第4次産業革命のケースとしてよく取り上げられる「スマートな工場」や「設備の予知保全」などの考え方は、これらの一部のプラクティスにしか過ぎない。
本稿では触れなかったが、海外企業ではほぼ常識化しつつある下記の4つのグローバルな業務活動・機能をグローバルな本社機構として整備していくことが必要と考えられる。このためには、当然であるがITの効果的な活用が必須である。急拡大する市場へスケーラブルに展開できる能力を獲得するためには、限界費用ゼロのソフトウェアを活用することが重要であるからである。
(4つのグローバルな本社機能・機構)
①製造業のサービサイゼーションへの挑戦とビジネスモデル戦略立案機能
②グローバルにみた新製品投入タイミングのマネジメント、グローバルSCM(資材調達、半製品生産、製品組み立てなどの供給連鎖構造の設計と運用)、設備投資・M&A等の組織的な意思決定機構(意思決定モデルと組織)(=IBP [Integrated Business Planning]、S&OP [Sales and Operations Planning])
③マーケティング機能、製品(部品表運用)・サービスの企画・設計・開発機能(グローバルな製品開発機能の活用含む)
④生産設備・ラインの制御系システム設計・生産活動・設備保守・工場運営などの生産技術・製造技術の共通知識DBによる「グローバルなマザー工場(生産技術センター)機能」
(隔週金曜日に掲載)
【著者紹介】
(2018/1/5 05:00)