[ トピックス ]

【電子版】経営戦略としてのIoT・第4次産業革命~ビジネス・システム・イノベーションの時代~(8)

(2017/12/22 05:00)

【日本企業の経営へのインパクトをどう考えるべきか ~各論編②~】

インダストリー4.0に対する日本企業の適応の考え方は、業種や企業規模により大きく異なる。本稿では、便宜上、製造設備製造業とユーザー製造業とを区分し、まずユーザー企業についてさらに大企業、中小企業と区分し、戦略の大きな方向を提案する。前稿は、ユーザー企業について分析を加えたが、本稿は、製造設備製造業の立場で分析を行う。

3.製造設備関連企業(大手)

これまで、製造設備(+関連制御ソフトウェアほか)を一体的に構築、提供することが競争優位の源泉であった企業が多い。全てを自前で構築してきたため、現在の広範囲の技術力・組織力は非常に高い水準にある。

一方、インダストリー4.0では、製造設備産業の産業構造のモジュール化を行い、破壊的イノベ―ションをもたらすことが意図されているわけである。この試みが必ず成功するとは限らない。しかしながら、かつてのPC産業と同じような産業構造の変化とプレイヤーの変化が起こる危険性も否めない。

このため、少なくとも戦略のポートフォリオを考えるべきであろう。つまり、現行の品質の高い垂直統合型の事業を、顧客が許容する限り当分の間、堅持することが重要である。その一方で、これまで参入が必ずしも容易でなかった欧米や海外企業市場に対する、新たな参入戦略として、当該産業のモジュール間インターフェース(IF)の標準化の動きを利用するのである。

つまり、①自社のコア技術の優位性を背景に、まずはモジュール単位での提供戦略、②他社のモジュールを含め顧客ニーズに則して組み合わせるコーディネーション(ラインビルディング)事業への本格的な参入、さらに③設備のトータルな保守作業やカイゼン活動の継続的なサービスを提供し続ける「製造プラットフォームサービス事業」を、新たに立ち上げることが有効ではないだろうか。

顧客のフロントに立つことで、これまで把握が容易ではなかった顧客の真の課題を把握でき、顧客と一緒に解決することができる立場を獲得し、これを次の製品開発に生かしていくことが効果的と考えられる。

もっとも、製品事業と顧客側に立つサービス事業とは、短期的には利益相反する危険性もある。できれば、別カンパニーとして新たなサービス事業を立ち上げることが効果的である。かつて、アナログ制御からデジタル制御にいち早く転換できた日本企業の文化があれば可能と考えるが、いかがであろうか。

4.中小製造設備産業(設備関連制御ソフトウェア等を含む)

これまで、大手企業の傘下として、グループ内取引を中心に行ってきたキラリと光る固有の技術を有する中小設備産業である。インダストリー4.0で起きつつあるモジュール化・国際標準化の動きは、当該企業には、大きなビジネスチャンスであろう。自社が競争優位を有する技術は、国際標準のモジュール間IFへ対応することで、グループ内市場だけでなく、これからはいきなりグローバル市場を対象とすることが可能となるのである。技術提携やアライアンス、M&Aなどもグローバルに行える可能性は高い。実際、欧州系の中小企業の中には、既に中国へ進出し急成長してきている企業もある。同様のモデルは豊富であろう。インダストリー4.0の狙いの一つは、先進国の中小企業のグローバル展開の加速であるので、当然であるが。

5.製造設備のラインビルダー

欧州には多数のラインビルダーが存在している。わが国にも少数とはいえ、極めて有力なラインビルダーが存在している。インダストリー4.0は、ラインビルダーにとって、願ってもない新たな事業機会を提供している。

ラインビルダーは、3.でも述べた、「他社のモジュールを含め顧客ニーズに則して組み合わせるコーディネーション(ラインビルディング)サービス」を既に提供しているわけである。モジュール化が進展することで、選択の範囲は拡大し、コーディネーション最適化の価値は向上する。新たな技術を評価する力は、ラインビルダーの真骨頂である。

さらに、「設備のトータルな保守作業やカイゼン活動を、継続的なサービス事業として展開する製造プラットフォームサービス事業」への展開も、技術革新が著しいPLM(製品ライフサイクル管理)のような“生産ラインの運営ソフトウェア”を活用することで、比較的容易にグローバル展開可能となることが予想される。実際、中小製造業ではこうしたサービスに対するニーズは比較的高い。

ラインビルダーの悩みは、設備投資が景気の波や製品のライフサイクルに左右されるために需要変動リスクが激しく、人的資源の確保・育成が保守的にならざるを得ないことであった。しかし、全事業の中で継続的なサービス部分のウエイトを上げていけば、事業の安定性が拡大し、人的資源の調達リスクも低減できる。リスクを抑制できることで、人的資源の制約が軽減され、加速成長が期待できるのである。

(隔週金曜日に掲載)

【著者紹介】

藤野直明(ふじの なおあき)

野村総合研究所 主席研究員

専門はSCM革新のコンサルティング。近年、第4次産業革命やIoT、オムニチャネルリテイリングでの調査研究・コンサルティング活動を、民間企業、産業政策双方の視点で行っている。日本オペレーションリサーチ学会フェロー、オペレーションマネジメント&ストラテジー学会理事、ロボット革命イニシアティブ協議会WG1情報マーケティングチーム・リーダー

(2017/12/22 05:00)

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