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(2018/1/19 05:00)
【IoT・第4次産業革命の類似例~アパレル産業~(前編)】
これまでは、主に輸送機械や製造機械関連のグローバル製造業の議論であった。読者の中には、当該産業は先端技術産業なので、IoT・第4次産業革命においても先頭を走っているとお考えの向きも多いだろう。しかしながら、この認識はおそらく違うと思われる。
日本にいては、残念なことに直接観察できず実感も持てないが、アパレル産業や国際物流産業、スマートシティなどを含む社会基盤産業などでは、IoT・第4次産業革命に類似のイノベーションが既にはじまっている、というより既に完成に近いと言っても言い過ぎではない。
先駆者としてのアパレル産業
アパレル産業は、最も早期にグローバルな分業体制が進展した産業である。この業界には異なる多数の企業間での複雑な国際分業体制の下で、グローバルな業務を行うことが日本でも40年以上前から活発に行われてきた。(グローバルには産業革命の羊毛、綿まで考えると200年前近くになる)
アパレル産業においては、既に「ブランド保有企業が、多数の企業と協働し、事業の急拡大にもスケーラブルに対応できるビジネス・プラットフォーム(仕組み)」がインダストリー・クラウドとしてグローバルにサービス提供されている。アパレル産業はインダストリー・クラウドプラットフォーム活用の先進ケースといえよう。
もっとも、日本のアパレル産業でのインダストリー・クラウドプラットフォーム活用企業は皆無、その存在すら知らない企業がほとんどという状況にある。不思議なことに、高度情報社会にありながら当該産業では日本企業だけが、いわばガラパゴス化している。アパレル産業は日本の産業の将来像の一つを示していると筆者は考えている。
グローバル・ソーシングプラットフォーム
近年急成長している欧米の多数のブランドホルダー(アパレルブランド、百貨店PB、GMS、SPA他)が、グローバルなソーシング(調達+SCM)活動に活用している大規模でシェアの高いインダストリー・クラウドに、EC-VISIONがある。(グローバルな貿易管理システムのクラウドサービスを提供しているAmber Roadの1部門:2015年に買収)
EC-VISIONは既にデファクト的存在である。もともと香港の巨大商社リー&フォンがプラットフォームとして活用していたことがその背景にある。当該クラウドではアパレル関連の世界中の縫製工場と先進国のブランドホルダーが連携、さらに主素材、副資材サプライヤーも参加し、既に世界約2万3000社が連携した仕組みになっている。
生産拠点の多くは既に新興国である。中国やアジア、カリブ諸国、北アフリカ、旧東欧などのサプライヤーも多数連携している。当該クラウドサービスの機能は①サプライヤー管理機能②商品戦略から商品計画、3D-CAD・PLM(プロダクト・ライフサイクル・マネジメント)を駆使した製品企画・開発業務管理機能③素材・副資材の調達管理機能④生産調達のスケジューリング、実行指示・進捗管理機能⑤国際ロジスティクス管理機能、等の広範囲に及ぶ一連のアパレル関連業務をカバーしている。
複雑に発達した多数の企業の国際分業体制(デザイナー、素材企画、サンプル生産企画、マーチャンダイザー、ブランドマネージャー、縫製、副資材、素材サプライヤー等)の下で、互いに協働活動を行うことを前提としたサービスである。
当該クラウドを活用することで、膨大な数の企業による分業体制をあたかも自社の経営資源のように管理しつつ、商品企画・開発から市場投入までのいわゆるタイム・トゥ・マーケットを短縮、市場不確実性に柔軟に適応し、かつ事業規模拡大に際しての生産資源調達のボトルネックを無くし、スムースに拡大できることを狙いとしている。
具体的には、①BOM(=部品表)コスティング等の仕組みにより、コストの透明化が可能で最適なコストを維持する仕組みとなっていること②市場不確実性に適応して生産スケジュールを柔軟に変更できること③取引モデルやシステムインターフェース等に国際標準を取入れることで、事業拡大に対しリソース調達のスケーラビリティが確保されていること―等が特徴となっている。
(隔週金曜日に掲載)
【著者紹介】
(2018/1/19 05:00)