[ オピニオン ]
(2018/1/23 05:00)
世界的な貿易紛争を回避するとともに、新興国経済の安定的な成長にも資する賢明な判断を、トランプ米大統領に望む。
鉄鋼の輸入品が自国の鉄鋼産業に与える影響について、トランプ大統領の指示で米通商拡大法232条(国防条項)に基づき調査を進めていた米商務省が大統領に報告書を提出した。内容は明らかになっていないが、大統領は報告書の受理から90日以内に対応を決める。
国防条項は米国の産業を衰退させ、国家安全保障上の脅威となる外国製品の輸入を制限するなどの権限を大統領に認めている。トランプ氏はこれを盾に、工業製品の対米輸出で多額の貿易黒字を稼ぐ中国からの鉄鋼流入を抑える狙いとみられる。
中国はこの間、内需をはるかに上回る過剰生産で余った鋼材を、安値で大量に輸出してきた。トランプ氏は中国から第三国を経由しての輸入も警戒しているとされ、日本も制裁措置の対象になる可能性がある。
欧州連合(EU)は制裁措置が発動された場合、対抗措置に出る構えを示しており、新たな貿易摩擦の火種になりかねない。各国・地域に報復の連鎖が広がる恐れがある。
当の中国も今、鉄鋼業の構造調整に取り組んでいる。同国政府は鉄鋼各社が抱える過剰な生産能力の削減や業界再編を促し、薄利多売型産業から、国際競争力のある高付加価値型産業へ転換させる方針だ。米国が制裁措置を発動すれば、こうした改革に水を差すことにもなりかねない。
急速な経済成長を遂げる中で、中国の産業界が抱え込んだ過剰なストックの調整は、中国経済を安定した成長軌道へと軟着陸させる上で、避けて通れない課題だ。それは先進国の経済が成熟期に入る過程で、少なからず経験した痛みでもある。
日本の鉄鋼業界は自らの経験を生かし、中国鉄鋼業界の構造調整を後押しする考えを示している。経済構造の転換期を迎えた新興国とどう向き合うか。保護主義的な政策の是非に加え、こうした点でもトランプ政権の姿勢が問われる。
(2018/1/23 05:00)