[ トピックス ]

【電子版】経営戦略としてのIoT・第4次産業革命~ビジネス・システム・イノベーションの時代~(14)

(2018/3/16 05:00)

海外大手製造業にみるオペレーションマネジメント言語の標準化(APICSの活動)

【質問】下記の言葉は何語でしょうか?

Andon, Deming Prize, five Ss, five whys, heijunka, Ishikawa diagram, Just-in-Time (JIT), kaizen, kaizen blitz, kaizen event, kanban, keiretsu, poka-yoke, Taguchi methodology, total quality management.

【正解】これらの言葉は、もともとは製造オペレーションマネジメント分野の『日本語』であったが、APICS(American Production and Inventory Control Society)によって、世界中で通用するようになった『世界標準語』である。

海外の大手製造業では、全世界数十カ国、販売拠点は100数十カ国へ展開している企業も少なくない。こうしたグローバル製造業では、「各社独自のオペレーションマネジメントの考え方を独自の知識体系として形式知化、組織知化し世界中に展開している」というわけではない。

日本の製造業ではあまり知られていないが、海外大手製造業では、むしろ基本的にAPICSの業務標準や標準の知識体系、標準の言語体系が活用されているケースが多い。(もちろん各社の特殊なオペレーションについてはこれらに付加されて活用されている)

APICSは1957年に設立され、ERPやSCM、S&OPの概念を提唱し、世界中に業務知識・言語体系を普及させている専門家団体であり教育機関である。全世界に約300のパートナー組織があり、教育・普及活動とテストを実施し、個人に対して資格(サティフィケーション)を授与している。

製造業のグローバルな企業活動を円滑に行うために、共通言語を理解する人材の確保を容易とすること、同時に個人としても同職種でステップアップしながら転職するという人材の流動性を担保することなどが狙いである。このため世界共通の知識体系を整備し、米国、南米はもとより欧州、アジア、中近東、ロシア・東欧、アフリカを含むほぼ世界中で教育・普及活動とテストを行っているのである。

第4次産業革命における“スマートなマザー工場による標準的な業務プロセスによるグローバルな製造管理”が、ともすると日本では壮大な夢に映るのに対し、海外企業では比較的現実的なモデルとして理解され、受容されているという認識格差の原因の1つは、APICSのような、いわばソフトなインフラ(社会基盤)に対する知識の有無と考えられる。

APICSが発行する代表的な資格はCPIM(Certified in Production and Inventory Management)とCSCP(Certified Supply Chain Professional)とであるが、全世界での認定資格者数はCPIMで12.7万人、CSCPで3.5万人である。


実は、多数の業務アプリケーションソフトウェア(ERP、SCM、S&OP等)の業務知識、言語体系は、APICSの知識体系・APICS辞書(見出し4000語以上)に基本準拠している。競合している多数のERPベンダーが参照している業務モデルは、ほぼ同じAPICSの言語体系で世界中展開されているのである。

ちなみに、米国での資格保有者が世界1位であり約10万3000人、日本の保有者数は世界で37位(159人)、ドミニカ、ナイジェリアとほぼ同等という水準である。中国は約2500人、韓国は約4500人である。日本ではほとんど知られていない資格と言ってよいだろう。日本人の有資格者が所属する企業は数社を除くと、ほとんどが外国企業の日本法人である。

APICSは日本の製造オペレーションマネジメントをよく調査・研究している。日本の製造現場の用語も取り入れている。冒頭で紹介したのは、国際標準語として採用されている代表的な日本語である。

JISとAPICSとを「APS」(Advanced Planning & Scheduling) を例に比較してみる。APICSによる定義はクリアで誤解を招くことのないように工夫されていることがわかる。

【JIS規格によるAPSの定義】

・部品構成表と作業手順を用いてスケジューリングを行い、納期回答をすると共に、設備の使用日程と部品の手配を行う活動 (JIS Z8141-3311)

【APICS DictionaryによるAPSの定義】 

・APSは製造及びロジスティクスの計画や解析の技術で短・中・長期をカバーする。

・APS では、有限資源スケジューリング(FCS)、調達、資金計画、市場予測、需要管理、その他のためのシミュレーションや最適化を行うため、高度な数学的アルゴリズムや理論をベースとしたコンピュータプログラムを記述する。これらの技術は、リアルタイムな計画とスケジューリング、意思決定、納期回答や納期確約に関する制約範囲やビジネスルールを同時に考慮している。

・APS は通常複数シナリオを提示し評価することができる。マネジメントはその中の一つを選択して正式なプランとする。

・APS の5つの構成要素として、受注計画、生産計画、生産スケジューリング、配送計画、そして輸送計画がある。

(隔週金曜日掲載)

【著者紹介】

藤野直明(ふじの なおあき)

野村総合研究所 主席研究員

専門はSCM革新のコンサルティング。近年、第4次産業革命やIoT、オムニチャネルリテイリングでの調査研究・コンサルティング活動を、民間企業、産業政策双方の視点で行っている。日本オペレーションリサーチ学会フェロー、オペレーションマネジメント&ストラテジー学会理事、ロボット革命イニシアティブ協議会WG1情報マーケティングチーム・リーダー

(2018/3/16 05:00)

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