[ オピニオン ]
(2018/3/30 05:00)
自動運転技術の開発競争が世界的に過熱している。この新技術が交通安全や事故死ゼロを目指すものなのかどうか、あらためて点検したい。
米国で3月18日、自動運転中の死亡事故が起きた。配車サービス最大手の米ウーバー・テクノロジーズがアリゾナ州で実施していた公道実験中のことで、自動運転車が歩行者を死亡させたのは史上初だ。
原因は捜査中で、すべて明らかになったわけではないという。しかし地元警察が公開した車載カメラの映像から、事故発生時の様子をうかがい知ることができる。夜間で視界が悪く、暗闇から浮かび上がるように現れた被害者に、車は減速せずにぶつかった。本来、前方に注意を払っているべき運転手は手元に気を取られ、直前まで歩行者の存在に気がつかなかったように見える。
現地報道はウーバーが実験用車両を変更し、センサーの搭載数が減ったことを伝えている。自動運転車に乗車する運転手はどうあるべきかというルールも含めて、安全性を確立できていなかったことが不幸な形で証明されたといえよう。
この事故を受け、ウーバーと車載半導体を提供していた米エヌビディアの両社は公道実験を中断すると発表。トヨタ自動車も実験の中断を決めた。
一方、ウーバーの競争相手であり、技術的に最も先行しているとされる米グーグル系のウェイモは実験を続けている。部分的ながら完全無人運転の配車サービスをアリゾナ州で始めており、2020年の無人配車サービスの本格開始に向け2万台の車両を調達することで英ジャガーと合意した。
自動運転が技術的に可能かどうかと、それを社会が受け入れるかどうかは別の問題だ。日本ではまだ、身の回りの道路を無人車が走りまわったり、無人運転のタクシーに乗車したりする交通環境を受け入れる準備はできていない。実用化に向けた焦りや技術への過信があってはならない。どんな技術も、安全性が最優先されたものでなければならない。
(2018/3/30 05:00)