IoT はどこまで進化したか (上) -『工場管理』2018年4月臨時増刊号

(2018/5/11 12:00)

IoTの進展と活用範囲

 IoT というコンセプトは、米国のP&G 社の技術者であったケビン・アシュトンが、1999 年にRFID(Radio Frequency Identifier)についてのプレゼンテーションで「Internet of Things」というフレーズを使ったことに端を発するといわれる。日本においては、IoT は「モノのインターネット」として広く翻訳され、多くの場面で表記されているが、インターネットにつながる対象物はモノのみではなく、広くヒトやサービスとの連動も視野に入れた体系までも意味している。

 最近の情報発信媒体では、情報通信技術と訳されるICT(Information and Communication Technology)にとって変わり、IoT(Internet of things)の文字が頻繁に掲載されている。コンピュータがネットワークを介して縦横無尽につながり、情報や知識の共有・伝達を支える通信機能の重要性が高まるとともに、情報技術と訳されたIT (InformationTechnology)が、ICT に置き換わったことは記憶に新しい。

 そしてコンピュータ以外のモノもそのネットワークに取り込まれ、モノのインターネットと訳されるIoT が、新たなネットワーク活用社会の総称として市民権を獲得しつつある。

  • 図1 狭義のIoT と広義のIoT

1. IoT の活用範囲

 本章では、狭義で使われてきたモノからの情報収集機能(生産工場などでFA:Factory Automationと呼ばれ脚光を浴びた時代もあった)としてのIoT の普遍的な利用価値を踏まえ、近年では生体からの発信情報までをも取り込みつつある、広義でのIoT の活用可能性について考える(図1)。

 ICT が十分に浸透していなかった黎明期には、ネットワークといえばイーサネットをはじめとした有線通信が一般的であり、IoT という概念が登場する前には、CIM(Computer Integrated Manufacturing)またはデータ発信側に、測定のためのセンサや測定器・計測器、または測定データを電気信号などに変換して伝送するための送信機を置き、受信側に測定データを受信する受信機やデータを蓄積・分析するためのシステムを配して、M to M(Machine to Machine)という考え方が提唱されていた。また、接続範囲は工場内やWAN(Wide Area Network)と呼ばれる狭い範囲に限定されていた。

 しかしこの状況は、携帯型のモバイル端末用無線通信の爆発的な普及により、高速・大容量の無線通信網が配備され、離れた場所にある機器同士を高速で接続できるようになり一変した。また規模の経済に乗り、各種センサ(カメラ用CMOS、GPS、照度、近接)・デバイスの大幅なコストダウンが実現され、IoT 社会実現の環境が一気に加速した。加えて、ICT という概念の一要素として定義付けられていたIoT が、ネットワークの柔軟性と分析・制御の機能までを有する概念として広がり、ICT の定義を凌駕するものとして認識されるようになりつつある。このような状況を踏まえ、これからの進展を加味したIoT を「広義のIoT」として表現する。

  • 図2 IT の変遷とIoT

2. IoT の活用分野と機能

 「狭義のIoT」を、各種の製造・制御機器にて入手された現場の情報を自動的に収集し、発生データを分類・集積したうえで、生産管理などの情報として活用する、M to M の延長線上の品質管理・実績把握・保全情報と定義する。図2 では、IT 技術の変遷を、その市場分野と機能分類について時間経過での変遷を表示した。IoT は当初、データの入力手段として、センサやカメラを活用して既存システムに情報を伝達する「狭義のIoT」が主流であった。また収集されたデータは、バッチ的に分析・管理されるだけではなく、リアルタイムでの解析を通して現実世界にフィードバックされる。最適な機器運用のための制御情報として、現場の実務者や製造機器への制御指示機能も、狭義でのIoT の範疇とする。

 本稿では、広義でのIoT を、従来までのICT に包含されていたネットワーク機能を中核として、あらゆる情報発信体とのコミュニケーション(情報の収集・分析・実世界の制御)機能を持つシステムと考える。

IoT の技術進化

 IoT の冒頭に冠せられるI は、インターネットを指すことから、IoT はインターネットを中核としたシステム技術であると捉えられがちである。しかしIoT は、各種の関連技術(入力・出力、送信処理)と情報基盤(ネットワーク)、データ処理としてのクラウド・コンピューティングから構成されている。

1. IoT システム構成

 IoT の実現には、インターネットが不可欠である。しかしIoT 普及の技術進化を考える際に忘れてはいけない最大かつ重要な基本要素として、発生情報を的確に捉えデータを発信するセンサの技術革新が挙げられる。

 従来までは現実世界の動作・現象に付随して、膨大なデータが発生しているにも関わらず、その情報を正確にそして廉価に収集する手段が存在してこなかったと考えることもできる。また、スマートフォンに代表される携帯端末に実装される複数のセンサが、その性能向上と量産効果によるコストダウンに貢献して、IoT 社会の実現を支援してきたと表現することもできる。

 そして収集された情報を分析し、価値のある知見として情報発信源であるモノにその結果をフィードバックするクラウド型やプラットフォーム型によるコンピュータ利用環境の汎用化、および実世界の制御を行うアクチュエータの存在も欠かすことはできない。センサ・ネットワーク・コンピュータ・アクチュエータの4 つの要素が連携し、IoT の利用価値を高めている。

→IoT はどこまで進化したか (下) -『工場管理』2018年4月臨時増刊号

筆 者:千葉工業大学 森 雅俊(もり まさとし)

大学院 マネジメント工学専攻 社会システム科学部 金融・経営リスク科学科 教授

所在地:〒275-0016 千葉県習志野市津田沼2-17-1

E-mail:masatoshi.mori@it-chiba.ac.jp

→『工場管理』2018年4月臨時増刊号

(2018/5/11 12:00)

関連リンク

おすすめコンテンツ

「現場のプロ」×「DXリーダー」を育てる 決定版 学び直しのカイゼン全書

「現場のプロ」×「DXリーダー」を育てる 決定版 学び直しのカイゼン全書

2025年度版 技術士第二次試験「建設部門」<必須科目>論文対策キーワード

2025年度版 技術士第二次試験「建設部門」<必須科目>論文対策キーワード

技術士第二次試験「総合技術監理部門」択一式問題150選&論文試験対策 第3版

技術士第二次試験「総合技術監理部門」択一式問題150選&論文試験対策 第3版

GD&T(幾何公差設計法)活用術

GD&T(幾何公差設計法)活用術

NCプログラムの基礎〜マシニングセンタ編 上巻

NCプログラムの基礎〜マシニングセンタ編 上巻

金属加工シリーズ 研削加工の基礎 上巻

金属加工シリーズ 研削加工の基礎 上巻

Journagram→ Journagramとは

ご存知ですか?記事のご利用について

カレンダーから探す

閲覧ランキング
  • 今日
  • 今週

ソーシャルメディア

電子版からのお知らせ

日刊工業新聞社トピックス

セミナースケジュール

イベントスケジュール

もっと見る

PR

おすすめの本・雑誌・DVD

ニュースイッチ

企業リリース Powered by PR TIMES

大規模自然災害時の臨時ID発行はこちら

日刊工業新聞社関連サイト・サービス

マイクリップ機能は会員限定サービスです。

有料購読会員は最大300件の記事を保存することができます。

ログイン